シチズンの「最薄腕時計」は、なぜウケたのか 最大の見本市で、「2.98ミリ」に世界が驚いた

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「エコドライブ・ワン」を開発した今村和也氏(撮影:梅谷秀司)

実際に発売するにあたって値付けをどうするのか。決定した価格は、革製ベルトの限定モデルは世界限定800本で1本70万円、メタルベルトのレギュラーモデルは3色展開でそれぞれ30万円。強気ともいえるこの価格設定に、社内でも不安の声が上がった。これまで消費者にはGPSなどの機能が付加価値として認められていたが、「エコドライブ・ワン」は薄さオンリーで勝負する。はたして数十万円の対価を得られるのだろうか。

だがこうした懸念は杞憂に終わる。蓋を開けてみると、2016年10月末に発売された70万円の限定モデルは予約だけでほぼ完売。11月末に発売した30万円のレギュラーモデルは50代のミドル層に人気だ。

技術の進展に伴い、GPS連携やアウトドアのため高度や方位が分かるなど、時計の機能は多様化している。そうした時代の流れにあって「エコドライブ・ワン」はそのシンプルさに価値が認められた。メタル製ベルトの時計が売れた後には、革ベルトの時計が売れたりするように、トレンドには揺り戻しがある。「エコドライブ・ワン」の薄さがウケた背景には、こうしたトレンドの揺り戻しも一因ではないだろうか。

同商品は時計作りの基本も追求している。それは「良い時計を薄く作る」ということだ。シチズンのソーラー発電技術であるエコドライブは、この40年間で大きく進化してきた。

フル充電で1年もつ

当初は一応電池として機能するといったレベルで、充電しないと1週間も電池がもたなかった。しかし現在では、袖で時計が隠れて充電しにくい冬でも電池が切れないように、フル充電で6カ月電池がもつことが最低基準となっている。「エコドライブ・ワン」の場合はフル充電で1年間もつ。

いかに効率よく電池をため、いかに少ないエネルギーで駆動するか。さらに機能が増えることによって大きくなりがちなサイズをいかに使いやすい大きさに納めきるか。いつの時代も変わることのない時計開発者の探求心によって生まれた1つの到達点が、「エコドライブ・ワン」だった。

(文中敬称略)

遠山 綾乃 東洋経済 記者

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とおやま あやの / Ayano Toyama

東京外国語大学フランス語専攻卒。在学中に仏ボルドー政治学院へ留学。精密機器、電子部品、医療機器、コンビニ、外食業界を経て、ベアリングなど機械業界を担当。趣味はミュージカル観劇。

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