シチズンの「最薄腕時計」は、なぜウケたのか 最大の見本市で、「2.98ミリ」に世界が驚いた

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しかし、スタート当初から、「ケースの厚みは3ミリ未満、ムーブメントの厚みは1ミリ以下」は動かすことのできない決定事項だった。これには理由がある。1981年発売の「エクシード」では、当時のクオーツ時計として世界最薄である2.88ミリを達成している。今回のプロジェクトでは、厚みが出やすい構造であるソーラー時計でありながら同等の薄さの実現が目標として掲げられた。それにはムーブメントの厚みを1ミリ以下に抑える必要があった。

そのためにはすべての部品を一から見直すことが求められた。たとえばコイル。コイルの芯に太い線をたくさん巻くことが省電力への近道だが、薄さを追求すると時計が十分に駆動できる数だけコイルを巻くことができない。そこでコイルの芯を長くし、一番細い線を巻くことで、薄く細く、かつコイルの巻き数が増えるように工夫した。

「本当に驚く6つの時計」に選出される

左端の極小の部品がローターだ(撮影:梅谷秀司)

最も苦労したのが、見本品のほとんどが割れたローターだ。それまでシチズンが発売した、当時の最薄ソーラー時計「ステレット」(2002年発売)では接着剤などを駆使し固定していた。だが、「エコドライブ・ワン」ではより部品数を減らすためレーザー溶接で固定した。こうした工夫を積み重ね、ついに当初目標の薄さを実現。バーゼルワールドに出展したところ、ブルームバーグによる「2016年のバーゼルワールドで本当に驚く6つの時計」の1つに選ばれた。

並み居るスイスの高級時計メーカーが出展する中で高評価を得た「エコドライブ・ワン」。しかし出品した時計は初号機の「とりあえず動くモノ」であり、日常的な使用のレベルには達していなかった。そこで今村は、信頼性に不安があるローターの改良に取りかかった。バーゼルワールドに出した段階では2工程で加工していたが、一気に加工することによって、品質の安定を確保。ようやく量産できるようになるまでこぎつけた。出来上がった時計を見て、戸倉社長も満足げだったという。

しかし、ここで新たな悩みが浮上する。

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