「過去・現在の隠れた事実を娯楽映画の中で描きたい」−−映画監督・プロデューサー ジョージ・ルーカス

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「過去・現在の隠れた事実を娯楽映画の中で描きたい」−−映画監督・プロデューサー ジョージ・ルーカス

アメリカでは自動車や航空宇宙に匹敵する輸出産業となった映画業界。しかも現在のハリウッド映画産業はアメリカ国外の売り上げが国内を上回っているといわれ、世界市場での展開はかつてないほど重要視されている。ハリウッドの頂点に君臨するジョージ・ルーカスとスティーブン・スピルバーグの2大巨頭が製作・監督でタッグを組んで世界中で大ヒットを飛ばしたインディ・ジョーンズ・シリーズ。その19年ぶりとなる最新作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』が今夏公開される。PRのために来日したジョージ・ルーカスにハリウッドの世界戦略を聞いた。

--現代のハリウッド映画は米国のみならず、多様な価値観を持つ世界中の人々がターゲットです。世界で通用するカギとは?

まず私自身が楽しめる映画かどうか、ということを意識しています。知性を満足させる映画もたまにあるが、非常に大きなパワーで人々のエモーションを喚起させる。これが映画の魅力だと思いますね。

映像、音楽、言語というコミュニケーション手段を比較すると、感情に訴え、感動を呼び起こすという点で、映像や音楽は非常にエモーショナルですよね。逆に言語は非常に論理的だし、知性に訴えることができる。だからこそ三つの手段で言語が重視される傾向が強い。でも映画には多様で複雑な表現スタイルがあるので、言語以上に多くのメッセージを発することができる。その意味では映画は言語よりも力強いコミュニケーション手段だと思うけれど、そこがなかなか理解してもらえない。

--同じ自動車や家電製品でも国ごとに少しずつ仕様が違うのに、映画は世界中の人が同じものを見るというのは不思議です。

いいえ、映画も自動車や家電と同じですよ。国によっては映画の内容に修正が加えられる。北欧は暴力の描写に非常に厳しいので暴力シーンはカットされる。性描写に厳しい国はその部分をカットする。政治的な描写をカットする国もある。国ごとに映画の内容が少しずつ違うということは結構ある。もちろんアメリカのオリジナル版をそのまま上映できる国もある。ただ、インターネットで誰もがオリジナル版を見ることができる時代ですから、映画に修正を加えるということは、今後、少なくなるのではないでしょうか。

--インディのシリーズではインド、中国、ナチスなど外国人が悪役です。こうした国の人にとっては必ずしも気持ちのよいものではない。世界中の人を同時に満足させることはできませんか。

うーん。どんな映画にも悪役は必要だからねえ。アメリカ人が悪役の映画も多いし、一概にハリウッド映画が外国人を悪役にしているとはいえない。それにインディのストーリーは歴史に基づいていることが多い。1作目(『レイダース/失われたアーク《聖櫃》)は、失われた聖櫃をナチが探していたという事実があった。今回の作品では、旧ソ連の調査隊が実際に超自然的なものを探していたわけだし、米ソ冷戦という時代背景もあった。そのため必然的に彼らが悪役になったわけだ。

--60歳代のハリソン・フォードが演じるインディが活躍する今回の物語は、退職期にあるベビーブーマー世代(日本の「団塊の世代」に相当)が、実社会でもうひと暴れしたいという欲求の具現化であると指摘する社会学者がいます。製作に当たって、ベビーブーマー世代を意識した?

意識するもなにも、私自身がそもそもベビーブーマー世代だから(笑)。要するに私自身が自分と同じような年代の人間が活躍する映画を見たかった。それだけだよ。

--9・11テロが映画に与えた影響はとても大きいと思います。今回の映画は1950年代を舞台にしていますが、やはり9・11以後の世界観が反映されているのでしょうか。

歴史は繰り返すものです。50年代に起きたことが、現代でも起きている。たとえば50年代とは、誰もが旧ソ連のスパイだと疑われていた時代でした。これは現代のテロリストの時代に置き換えられますね。また現代は赤狩りの時代のように、集団の中で同じ意見を持たない人は解雇されるということが頻繁に起きています。50年代に起きていたことが形を変えて現在起きている。今回の映画の中に現代との共通点はいろいろ見つかると思いますよ。

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