学生3億のインド、日本企業が採用するには? 内定決定までたった1日の「超売り手」市場

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ワークスアプリケーションズのように、グローバルに機動的な採用活動を展開し、現地の大学と学生をよく見て、効率的に結果を出す日本企業は少ない。多くの日本企業は、インドに限らず、高度技術系人材のグローバル採用で現地法人と本社の連携が弱く、まったく別々の動きをしている。日本式の人事労務管理の限界だ。

新卒学生に1000万円以上を提示して、欧米勢と人材を奪い合うということは、日本企業にとって難しい。人事担当役員の下で採用のプロジェクトチームを発足させる必要があるが、そのプロセスは大変であり、結果も問われる。「言い出しっぺが損をする」と言わんばかりに委縮してしまうのが普通かもしれない。日本的な常識に縛られて動けないでいるのだ。

「米国の企業に転職することを考え、今、勉強しています」。ある日本企業の若いインド人社員からこう聞いた。インドでの人材獲得で、世界の大手企業から日本企業が出遅れている原因として、「関心がない」「情報がない」「負担が大きい」といったこと以外に、採用後のリスクがあるとも言えるだろう。

転職前提で新卒採用すべき

「受け入れた後の体制の構築も重要。採用したインド人に10年間いてもらうことは難しく、5年間くらいと見ておくのが妥当。5年間で何らかの成果を求めるような仕組みが必要」(パソナの谷氏)である。

本社側の人事決裁権者がインドまで行って、汗を流して苦労の末に優秀な学生を獲得できたとしても、上昇志向の強いインド人にとって「日本で働いた実績」を基に転職していくのは当たり前で、つなぎとめることは不可能である。獲得した人材の実績が5年以内で企業の資産として確実に残せるような、仕組みやスケジュール感でなければいけない。

これは、当然ながら人事部門だけの問題ではなく、インド人が実際に働く部門が中期計画でどう人材を使いたいのか、明確にしておく必要がある。欧米勢はグローバルな人事システムや研究開発体制で、横の連携を保ちながら柔軟に採用活動を行い、難なく大量採用に成功している。3億人のインド人学生の頂点を前に、出遅れた日本企業が考えるべきことは多い。

須貝 信一 ネクストマーケット・リサーチ代表

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すがい しんいち

1973年生まれ。法政大学英文科卒業。外資系IT企業、インド関連コンサルティング会社にて取締役として事業の立ち上げ等を経て、現在は(株)ネクストマーケット・リサーチ代表取締役。著書に『インドでつくる、売る(実業之日本社)』『インド財閥のすべて(平凡社)』等。中小企業診断士。ネクストマーケット・リサーチはインド、南アジア新興国の経済情報の提供のほか、進出支援コンサルティング、リサーチ、各種研修などを行っている。

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