トランプ政権は中東情勢を変えられるのか 「米国が第一」のままでは状況は好転しない

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またイラクでは、シーア派であるマリキ元首相が国内のスンニ派をないがしろにしたため、スンニ派の過激派が同国に残っている。だからといって、スンニ派の過激派グループによる攻撃の被害を受けてきたシーア派を非難するのも賢明ではない。

シリア情勢は中東の社会的、政治的な問題を複雑にしている。シリアの内戦は、民主主義的な野党を求める国民の声を無慈悲な独裁者が抑圧している構図だけでなく、宗教間や民族間の葛藤というべき性格も帯びている。誰が正しいのかを特定することは簡単ではない。

IS打倒には繊細なアプローチが必要

過激派組織IS(「イスラム国」)は国際社会にとって大きな脅威だ。トランプ氏の新たな国家安全保障チームもそう認識しているはずだが、理解していないことがある。世界中からISを排除するには、今掃討作戦が進んでいるイラク第2の都市モスルだけでなく、その他の都市についても繊細なアプローチが必要だということだ。

IS打倒に向け、トランプ政権はシリアと関連のある諸外国にも施策を講じなければならない。たとえばNATO(北大西洋条約機構)加盟国で、シリアへの強い関心を持っているトルコに対し、効果的な政策を講じる必要がある。トルコの民主主義が揺れ動いているにもかかわらず、同国の指導者が欧米にあまり関心を示していないこの時期にこそ、米国は上手なアプローチを採るべきなのだ。

イランの問題もある。トランプ支持者の多くは、イラン核合意の再交渉を望んでいるようである。米国がこの合意を放棄すれば、イランは中東の混乱をいとも簡単に悪化させてしまうおそれがある。

中東問題に関してはその他の施策も必要だ。たとえばエジプトへの姿勢も再考する必要がある。エジプトは最近まで中東をめぐる米国の外交に重要な貢献をしていた。イスラエルをめぐる和平プロセスについては今後事態が悪化する可能性があるが、だからこそ和平の進展にエジプトの協力が欠かせない。

トランプ政権は外交政策で自国を最優先する姿勢を強調するが、現実に目を向け、中東問題に前向きに関与する姿勢を示してほしい。

クリストファー・ヒル 米デンバー大学コーベル国際大学院長

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Christopher R. Hill

米国の元東アジア担当国務次官補。近著に『Outpost』。

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