トランプは「500年後の絶望世界」を作り出す 「旧ソ連の比ではない」とフルシチョフ孫娘

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大統領選でケネディ氏は、彼に比べると冴えない候補のリチャード・ニクソン氏と争った。ケネディ氏は実利主義の権化ではなく、カウボーイというよりプレーボーイとして米国人の心をとらえた。

次に絵になった米大統領は、実際にカウボーイを演じた元俳優のロナルド・レーガン氏だった。彼は需要よりも供給の拡大に重きを置く「サプライサイド経済学」を白人の労働者階級に説き、連邦政府が教育などへの関与を薄める「小さな政府」こそが、米国に夜明けをもたらすと国民に対して主張した。

レーガン氏は周到に作り上げた陽気さで大統領の責務を果たし、ハリウッドで培った才能を発揮した。核抑止戦略を終わらせるための戦略的防衛構想は「スターウォーズ計画」と呼ばれた。共和党の象徴としてレーガン氏が永続的な地位を得ることができたのは、映画スターらしくカウボーイを演じる素質があったことが大きい。

冷戦の勝利を経て、米国では2000年にジョージ・W・ブッシュ氏が大統領に当選した。彼は父親の東海岸の血統と、テキサス流の素朴な人格が合わさった人物だった。しかし、映画スターというよりは、戦争屋だったといえる。

現在、米国の政治とエンターテインメント分野は新たな段階に入っている。多くの人々を引き付けているテレビ番組やソーシャルメディアは、かつてないほど赤裸々かつ刹那的で情け容赦がない。

現実と仮想の境目があいまいに

人々は知識を得たり議論をしたりするために、フェイスブックで「いいね」をクリックし、ツイッターでつぶやくようになった。トランプ氏もツイッターで政策を表明し、怒れる人々を引き付けた。彼自身、選挙での勝利はソーシャルメディアによるものだと認めている。

トランプ氏に投票した人の一部は、あくまで常識に従っただけと主張している。こうした人々には、繁栄の約束と負債の軽減、軍事力の強化、移民制度の見直しといった公約が有効だった。

しかし、その訴えは実体や一貫性を伴っていない。支持者が投票したのは、リアリティ番組のボスとして出演者を攻撃していた、権威主義者としてのトランプ氏だったのだ。

トランプ氏は新たなファシズムにまでは至らずとも、ごく限られた人々に奉仕する米国を作り上げることができるかもしれない。その結果、ソーシャルメディアで猫の写真や虚報を忙しくシェアしている人々は、現実と仮想現実とをしだいに判別できなくなっていく。

トランプ氏が当選したことで米国の文化的創造性が地下に追いやられてしまえば、それは壊滅的なことだ。最終的に抵抗運動が巻き起こってトランプ体制が崩壊しなければ、希望の光は見えてこない。

週刊東洋経済12月3日号

ニーナ・フルシチョワ 世界政策研究所上席研究員

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にーな・ふるしちょわ / Nina Khrushcheva

『Imagining Nabokov: Russia Between Art and Politics』著者。米ニュースクール大で国際問題を教える。元ソ連最高指導者の孫。

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