ヒラリーが、しぶとく嫌われ続ける根本理由 女性リーダーが陥る致命的な落とし穴

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クリントン嫌いの国民が理由として掲げる最も大きなものは「信頼できない」ということだ。

FBIは以前にも国務長官時代のクリントンの私用メール問題を調査していたが、今年7月、違法行為の証拠はないとして、調査の終了を発表していた。今回は、これまで見つかっていなかった、新たな証拠となるかもしれないメールを見つけ、調査の再開に至った、と説明している。その新しいメールに国家機密となるものが含まれているのかは全く分からない、としている。

嫌われキャラである(2016年 ロイター/Brian Snyder)

トランプ陣営は、こうしたスキャンダルを背景に、クリントンに対し、「Corrupt(腐敗した)」などという言葉を使い、ウォールストリートなどの富裕層などから多額の寄付を受け続けていることを非難材料にしている。実際、大手投資銀行のゴールドマンサックスからは、クリントンが行った3回の講演に対し、67万5000ドル(約7000万円)が支払われたことも明らかになっている。これを追求されたクリントンは「だって、彼らがそれだけ払う、って言うんだから」と答え、全く悪びれた様子をみせなかった。このようなエピソードが権威主義的で計算高いイメージを増幅している。

イェール大学ロースクールを卒業し、弁護士、大統領夫人(ファーストレディー)、国務長官、上院議員というきら星のような要職を歴任してきたバリキャリエリートである。それだけに、どうしても官僚的なイメージが抜けず、「上から目線」な物言いが反感を買うことも少なくなかった。かつて、「私は家でクッキーを焼いて、お茶を入れるようなそんな女じゃないわ」と啖呵を切り、物議を醸したこともあった。

Such a nasty woman

まさにプロの政治家であり、経験が豊富であることが逆に、現状の政治に不満を持つ人に、「彼女のせいで、ここまで状況が悪くなった」と思い込ませてしまっている。その男顔負けの強さは、長年、女性差別に対して、最前線で戦ってきた闘士そのもの。ただ、その姿が、トランプのような古いタイプの男性の目には「傲慢」で「脅威的」に映る。第三回討論会で、トランプが「Such a nasty woman」(なんてやらしい女だ)と言い捨てたのは、まさに「マチズモ(machismo 、男性優位主義)タイプ」の男性からすると最も苦手なタイプの女性だということだろう。筆者のアメリカ人の友人も「(夫である)ビル・クリントンの方がfeminine(女らしい)」と皮肉るほどだ。

テレビ討論会では、1回目は赤、2回目は青、3回目は白、つまりアメリカの国旗色のラルフ・ローレンのパワースーツに身を包んだ。とにかく、自分を強く見せ、有能さをアピールする。長年、様々な性差別や偏見と闘ってきた彼女ならではの、武装術なのだろう。

その鎧があまりに堅苦しく、ぶ厚すぎて、まさに超仕事ができるワーカホリック上司のように、権力志向が強く、ロボット的に見えてしまう。あまりの「用意周到ぶり」が偽善的にとらえられることも多い。トランプ支持者は「トランプは偽悪的なだけでクリントンよりもずっと正直」と思い込んでしまっている。

オバマ大統領が、ティーンエージャーの父親として、ミシェル夫人の夫としての「素の顔」を所々でみせ、子供と無邪気に遊び、バスケットボールに興じて、国民を魅了したのとは全く異なり、プライベートの顔もあまり見えない。要するに徹頭徹尾、共感を覚えにくいキャラなのだ。

そもそもリーダーには2つの資質が必要だと言われている。

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