アナログレコードがなぜか急成長する理由 PERSONZ「限定リリース」の挑戦から考える

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ここ数年、東洋化成の工場はフル稼働だ。職人の技が活きている。日本の音楽会社だけでなく、海外からの依頼も増えている。中国などにとっては、レコードは完全に新しいメディアだ。今後も盛り上がりを見せそうだ。

面倒くさいものがカッコいい時代、便利さへの反動?

「面倒くさいものが、カッコいい」「便利さへの反動」そんな動きがじわじわ広がっているのではないか、と私は感じている。もちろん、効率性の追求は大事だし、黙っていてもそんなことが期待される時代である。ICTの発達などによって、物事はどんどん便利になっていく。そんな時代だからこそ、「面倒くさい」ものに注目が集まるのだろう。土鍋ごはん、マニュアル車に注目が集まる現象とも似ていると言えるだろう。

レコードを聴くという行為は「体験」だ

PERSONZの取り組みは、音楽業界の変化を象徴している。音楽に関しては定額音楽配信の登場や、ライブの人気などが話題となる。しかし、感度の高いファンほど、それに対して飽きてしまっているのではないかと感じる瞬間がある。個人的にも定額音楽配信はむしろ有り難みを感じない。私自身、ライブにも相当通っているのだが、特にフェスに関しては、いかにも総花的なセットリストで、しかも演奏がグダグダなバンドもあり、嫌な思いをすることもある。入れ替え時間も短いので、サウンドチェックも十分できず、理想の音が作れるわけでもない。ファンも徐々にそんな限界に気づき始めているのではないか。

音源は、最高傑作の演奏がパッケージ化されたものと言える。これは、生ビールや活蟹が必ず美味いわけではないことと似ている。注ぐもの、料理をする者が下手な場合や保存状態が悪い場合は、缶ビールや冷凍蟹の方が美味しい場合もあり得る。レコードを聴くという行為は「体験」だ。自分たちがこだわりぬいた音を丁寧にファンに届ける。この一例が、PERSONZの選択である。

古いものが蘇り、若い人に新しいものとして届くというトレンドも興味深い。最近はレコードを1回も聴いたことがない若者も多数いる。いきなり針を円盤の真ん中に落とすものもいるという。まず扱い方や操作方法から教えなくてはならないというが、それでも若者たちはレコードに関心を持ち、手にとっている。

このように「面倒くさいけどカッコいいものへの回帰」「古いものを、新しく蘇らせる」という取り組みは、ビジネスのヒントにもなりそうだ。あなたの担当している商品・サービスに置き換えてみると、どうなるだろうか。

PS なお、余談だが、飲みの席でウケそうな小ネタを。レコードにはA面とB面がある。そこで前編と後編にわかれ、曲の流れも変わる。その時、A面、B面の最後はバラード率が高いと感じたことはないだろうか。実はこれは、単にアルバムの構成の話ではなく、技術的な関係なのだ。レコードの性質上、真ん中に進むほど、記録できる音域が限られてくる。バラードが多いのはそういう事情も関係しているのだ。ご参考まで。

(撮影:徳井 愛子)

常見 陽平 千葉商科大学 准教授、働き方評論家

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つねみ ようへい / Yohei Tsunemi

1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。同大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート入社。バンダイ、人材コンサルティング会社を経てフリーランス活動をした後、2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。2020年4月より現職。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

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