アップルペイに埋め込まれた3つの日本仕様 こんなに便利に使えるのは日本しかない

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Apple Payでは、前述のとおり、指紋認証によって決済を確定させる機能がある。しかし改札を1秒で通過するのに、この指紋認証はロスとなる。そこで、Suica向けには「エクスプレスカード」と呼ばれる機能がApple Payに追加された。

iPhoneやApple Watchに登録したSuicaのうちの1枚を選択すると、改札やコンビニでの決済の際、指紋認証を回避して利用できるようになった。これにより、既存のSuicaカードと同じスピードで改札を通過できるため、朝のラッシュ時に滞りを作る心配がないという。

ロンドンの交通機関でもApple Payが利用されているが、改札を通過する際でも、店舗での決済と同様、指紋認証が求められる。そのことから考えると、「エクスプレスカード」は、いままでのApple Payからすれば、Suicaに限った例外的な対応である。

そして3点目は地図アプリとの連携だ。

「iOS 10.1では、マップアプリで、日本の乗り換え案内をサポートしました。たとえば六本木から甲府へ行こうとする場合、時間や路線だけでなく、ホームの番号まで、経路に表示されます。加えて、もしiPhoneにあるSuicaの残高が、検索した経路でかかる交通費を下回っている場合、残高が足りないことが地図上に表示され、ワンタップでチャージ画面を開くこともできます」(ベイリー氏)

最大のメリットはセキュリティとプライバシー

ベイリー氏が強調するのは、Apple Payで実現するより高いレベルでの、セキュリティやプライバシー上のメリットだ。Apple Pay全般のメリットに加え、Suicaについても、iPhoneに入れて使うメリットがあるという。

「セキュリティとプライバシーは、Apple Payで当初から重視してきました。もしApple Pay設定済みのデバイスを紛失した場合でも、「iPhoneを探す」や「iCloud.com」で、Apple Payの利用を一時停止、あるいはリモートワイプで削除することが可能です。Suicaについても、新しいiPhoneに、元の残高や定期券、特急券を復元することができます。

Apple PayをiPhoneに設定した場合でも、ユーザーのクレジットカード番号が、デバイスやAppleのサーバーに保管されることはありません。デバイスごとに固有の番号が発行され、セキュアエレメント(セキュリティ専用チップ)の中に暗号化されて保管されます。そのため、Apple Payでの決済で、店舗にカード番号が伝わることもありません」(ベイリー氏)

アップルはFeliCaをサポートし、コンタクトレス・ネットワークであるiDとQUICPay対応店舗をApple Pay対応店舗として活用できるようにした。加えてSuicaのサポートは、日々の暮らしにApple Payを浸透させる非常に大きな一歩となる。

米国でのApple Pay利用の体験から鑑みて、今後数年、あるいは5年以上にわたって、Apple Payをもっとも便利に利用できる国として、日本を追い越す国はまず出てこないだろう。

デバイスやApple Payそのものの仕様まで変更したアップルの強い意気込みからも、Apple Payの将来像をいち早く実現する点で、日本市場は重要なフィールドであることを感じさせる。
 

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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