「2つの過剰」に苦しむ世界の工場・中国 景気・経済観測(中国)

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ただし、生産能力過剰問題を軟着陸させ、再発を防止できるかどうかは、今後の実践に委ねられているといわざるを得ない。例えば、中央政府の投資許認可権が失われることで、投資の抑制がよりいっそう難しくなるのではないかとの懸念も聞かれる。中央政府は事後のモニタリングを強化すれば、結果的に安易な参入も抑制されると考えているが、誰がどのようにどの程度のコストをかけモニタリングをするのか、その制度設計が問われている。

また、地方政府を殖産興業に強く駆り立てている財源不足の緩和、国有企業や地方政府の人事考課制度の見直しも、生産能力の過剰状態の頻発を防ぐうえで必須の課題だ。だが、いずれの課題も政治改革と直結しているだけに、早期解決は容易ではない。

したがって、都市化推進など、中央政府の政策目標に乗じて地方政府等が投資・生産の拡大に走る可能性は今後も残る。また、それを抑えるための引き締め強化が景気を腰折れさせるリスクもある。中国政府は緩やかに投資の伸びを抑えていくことを狙っているが、果たせるか。対中資本財輸出の多い日本にとり、その成否がもつ意味は大きい。

伊藤 信悟 国際経済研究所主席研究員

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いとう・しんご

1970年生まれ。東京大学卒業。93年富士総合研究所入社、2001年から03年まで台湾経済研究院副研究員を兼務。みずほ総合研究所を経て18年に国際経済研究所入社。主要著書に『WTO加盟で中国経済が変わる』(共著、東洋経済新報社、2000年)、主要論文に「BRICsの成長持続の条件」(みずほ総合研究所『BRICs-持続的成長の可能性と課題-』東洋経済新報社、2006年)、「中国の経済大国化と中台関係の行方」(経済産業研究所『RIETI Discussion Paper Series』11-J-003、2011年1月)など。

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