「2つの過剰」に苦しむ世界の工場・中国 景気・経済観測(中国)

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さらに4月には、繊維産業などを含む19業種で淘汰に関する数値目標が定められている。  

これらの業種に共通するのは、国有企業の存在感が強いという点である。そもそも鉄鋼、非鉄金属、化学、自動車などは、国有企業が相対的な支配権を持つべき業種だと政策上位置づけられてきた。また、経済成長に伴って生産が誘発されやすい業種も含まれる。地方政府は財源確保や雇用創出、幹部の昇進上のアピールなどのために殖産興業に力を入れてきたが、そうした業種が育成対象に指定された。例えば、化学、金属、電力事業などだ(図表2)。

政府の殖産興業で生じる生産能力の過剰

これらの業種はインフラ・不動産開発の恩恵を受ける業種の典型例でもあり、4兆元の景気刺激策がこれらの業種の投資を勢いづかせ、生産能力の過剰感を強めた。また、中央政府から高い評価を受けやすい新興産業も地方政府の育成対象とされた。具体的には多結晶シリコンや風力発電設備などである。

殖産興業が図られる過程で、地方政府の意向を受けて国有企業が過大な投資を実行するという事態が発生した。また、雇用維持などの観点から、地方政府の支援により、経営難の国有企業に対する延命も図られた。地方政府が許認可権を使い、非国有企業や非地元国有企業に対して参入障壁を設けるケースもある。それも非効率な国有企業の市場からの退場を阻害する役割を果たしてきた。

こうした生産能力過剰を生むメカニズムを放置すれば、金融システムや財政面でのリスクを高め、持続的な成長が危うくなる。人口減少時代の到来も近づいており、地方政府債務残高の規模も拡大しているだけに、中国政府も危機感を強めているように見受けられる。

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