大問題!長期金利はなぜ高騰するのか? 正反対の日銀見通しで債券市場が大混乱

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5月中旬、長期金利が急騰した。15日には10年国債の利回りが一時0.9%を超えた。短期の金利はそれほど上昇していないので、イールドカーブ(金利の期間構造を示す曲線)の傾きが急になった。

日本銀行の新金融政策発表翌日の4月5日にも、長期金利が乱高下した。その後、0.6%程度の水準が続いていたが、再び大きな変動があったわけだ。長期金利が短期間にこのように大きな変動を示すのは、あまりない。金利は最も重要な経済変数の一つだから、これは看過することのできない重要な事態である。

金融緩和による長期金利の上昇は、ありえないことではない。2010年11年にアメリカの量的緩和策QE2が導入された際、10年債利回りは、1%ポイント程度上昇した。これはインフレ期待の高まりからと言われる。

イールドカーブが急になることも、金融緩和期によく見られる現象であり、珍しいものではない。ただし、通常は、長期金利が一定のアンカー値からあまり変化せず、短期金利が下がる。しかし今回は、短期金利が下がらずに長期金利が上がった。

長期金利高騰は、経済活動にいかなる影響を与えるか?

第一に、金融機関に巨額の評価損が発生する。日銀は、『金融システムレポート』の中で、1%の金利上昇によって銀行に6.6兆円の評価損が発生するとの試算を示している(全期間の金利が上昇する場合)。

第二に、貸出金利が上がれば、経済に抑制的な影響が及ぶ。貸し出しが増えないので、設備投資も増えない。住宅ローン金利はすでに上昇しているが、これは住宅需要を冷やす可能性がある。

第三に、国債の利払いが増加する。年間の国債発行額はグロスで174兆円(12年)なので、金利が1%上昇すれば、支払金利は1.7兆円増加する。これは、消費税率を3.5%引き上げた場合の国の増収分(増収総額から地方に回される額を控除した額)に匹敵する。

第四に、長期金利が乱高下すると、長期計画が立てにくくなる。設備投資の決定には長期金利が影響するが、乱高下すると、それだけで設備投資が減少するおそれがある。実際いくつかの企業が、社債の発行の延期を決めている。また、銀行や保険会社などの資産運用において、国債を買い増すべきか売却すべきかの判断は、長期金利の見通し次第で正反対になるので、大混乱に陥る。

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