阿蘇山噴火、これから何に警戒するべきか 4度もあった「巨大カルデラ噴火」の恐怖

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そして、首都圏では20センチメートル、北海道と沖縄を除く列島のほぼ全域に10センチメートル以上の火山灰が降り積もる。そしてこの降灰域では電気・ガス・水道・交通網などのすべてのライフラインが停止し、1億人以上が日常生活を失うことになる。おまけに現状では、この状況下での救援・復旧活動はほぼ不可能である。これは、「日本喪失」にほかならない。

自然災害や事故の対策を講じる際に参考にされるのが「危険値」という概念である。この値は、その災害による予想死亡者数に発生確率を乗じたものだ。確かに巨大カルデラ噴火の発生確率は小さい。今後100年で約1%程度である。しかしその危険値は、首都直下地震より高く、南海トラフ巨大地震とほぼ同程度である。

火山列島に暮らすということ

『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

日本喪失が起きるのならば、それはそれで諦めて日々楽しく暮らそう、という見解もあるだろう。しかし私たちの子々孫々が末永く安泰であってほしいと感じる方も多いのではないだろうか。

私たちは火山から多くの恩恵を与えられてきた。温泉はわかりやすい例だし、拙書『和食はなぜ美味しい』でも論じたように、実は世界に誇る「和食」も火山からの贈り物である。火山活動のおかげで山国となった列島は、昆布や鰹の旨味成分を効果的に抽出する軟水に恵まれたのだ。

だから、ちゃっかりと恩恵だけを享受しているのはずるいように感じる。火山からの試練を十分に理解して覚悟することも、火山の民が取るべき道ではなかろうか。もちろん覚悟は諦念ではない。未曾有の災害に対する立ち振る舞いを考える必要があるだろう。

もちろん私たち科学者は、巨大カルデラ噴火の予測に向けて観測を開始している。まずは体の中を調べるCTスキャンと同じ原理で、マグマ溜まりの大きさと位置を正確にイメージングすることだ。簡単なように思われるかもしれないが、日本の火山でマグマ溜まりを正確にとらえた例はないのだ。火山大国、技術立国としては情けないかぎりである。

巽 好幸 神戸大学海洋底探査センター長

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たつみ よしゆき

1954年、大阪府生まれ。理学博士。専門はマグマ学。1978年、京都大学理学部卒業。1983年、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。京都大学総合人間学部教授、同大学大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球内部ダイナミクス領域・発展研究プログラム・プログラムディレクターを経て、2012年より、神戸大学大学院理学研究科教授。2016年より神戸大学海洋底探査センター長。2003年に日本地質学会賞、2011年に 日本火山学会賞、2012年に、米国地球物理学連合(AGU)ボーエン賞を受賞。著書に『地球の中心で何が起こっているのか』(幻冬舎新書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい――日本列島の贈り物』(ともに岩波書店)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)などがある。

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