「IoT」でビッグデータとAIは絶対に必要か データをむやみに集めても「IoT」には無意味

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同じように「人工知能に解析させないと……」というIoTの“常識”も疑ってかかる必要があると思います。

例えば小売店舗では、レジにお客様が購入された商品データが残ります。しかし、「お客様が一度は手に取ったけど、買われなかった商品」のデータは残っていません。

みなさんも、コンビニでペットボトルを1度は手に取ったけど、その瞬間ほかのペットボトルが視界に入って、最初のペットボトルを買わなかった経験があるのではないでしょうか。この「買われなかった」というデータは、販売増へつなげるヒントになります。

実は、私たちの会社では、実際にメガネ店で「買われなかった商品分析」の実験をしたことがあります。メガネやサングラスはお店で複数個かけてみて、鏡で似あうか確認して、買うかどうかが決まります。最初に手に取った商品が必ずしも買われるわけではないため、何回目に手に取った商品が一番買われているのかを分析したところ、2回目に手に取った商品が最も買われていることが分かりました。

当時はセンサーを使わず、人がデータを入力することで分析しましたが、IoT時代はセンサーの価格が下がり今まで取れなかったデータが簡単に収集、分析できるようになります。買われる前のペットボトルやメガネ、もしくは陳列棚にセンサーを付けることは難しくありません。

集めたデータを人工知能で解析すれば、例えば「その人の嗜好と合っていなかった」「価格に値ごろ感がなかった」などの理由が出るかもしれません。

人間が直接解析するほうが良いケースも少なくない

しかし、わざわざ人工知能を使って、そうした分析結果を出すよりも、接客現場の店員が、そのデータを見て、「なぜ買われなかったのか」を自分なりに考え、商品の陳列順序を変えたり、お客様にお声がけするタイミングを変えたり、試行錯誤することこそが最も小売店舗では重要だと思うのです。

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つまり、これまで収集できなかったデータを取り、人間が考えつかなかったことまで幅広く分析してくれる人工知能の力も時として借りることも大切ですが、最後は人間がもう一度咀嚼して接客現場のカイゼンにつなげる(=働く人が今より賢くなる)ことこそが、IoT時代の人工知能の活用方法だと思います。

IoTには大きな可能性がありますが、必ずしも「ビッグデータ」と「AI」が不可欠だ、というわけではありません。事業者の収益性をもっと意識して考えれば、スモールデータで十分だったり、常に人工知能にデータ解析をさせなくともいい場合があったりすることを、覚えておいていただきたいと思います。

武下 真典 エスキュービズム取締役

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たけした まさのり / Masanori Takeshita

たけした・まさのり 1979年生まれ。大阪大学工学部卒業後、フューチャーアーキテクト入社。2008年エスキュービズム入社。小売りや外食産業の経営課題を解決するIT製品を数々リリースし、eコマースや店舗スマートデバイス部門のパッケージ導入数で業界シェア№1を獲得。2014年より現職。

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