「2020年教育改革」で潰れるのは、どんな塾か 「ゆとり教育」大失敗から文科省も反省した

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そして3つ目の学力。これは「主体性・多様性・協働性」と名付けられているが、具体的には以下のようなイメージだろう。

その生徒が「知りたい!」「やりたい!」と思っていることは何なのか。研究したいテーマや、将来、就きたい仕事は何なのか。将来の目標に対して今までどんなチャレンジをしてきたのか。リーダーシップやフォロワーシップを発揮したことがあるか。自分の資質をどのように社会に役立てようとしているのか。

その生徒のビジョン・意欲・経験を、学力として測り評価するのだ。この3つ目の学力は、各大学が実施する個別試験で測られる。具体的には面接・プレゼンテーション・志望理由書の作成といった、就職試験にも似た方式が検討されている。

この大学入試改革のシナリオは、受験産業にとっては何を意味するのだろうか。それは今後もひとつ目の学力ばかりをトレーニングするならば、時代に取り残され、最後には「潰れる」ということを意味する。

因数分解のスピードを速くする。英単語を大量に暗記する。さまざまな解法テクニックをマスターする。こうしたトレーニングを通して身につけられる学力は、2020年以降は合格に必要な学力の3つのうちの1要素でしかなくなる。したがって残り2つの学力を育てるための、新たな教育手法の開発に取り組まなければならない。

ネガキャンはもう通用しない

いや、そんなことをしなくても、前回同様、改革に対して徹底的なネガティブキャンペーンを張り、消費者を味方につけ改革を阻止するという手もある。しかし、世論を味方につけながら、文科省が入試改革制度という「戦略拠点」を押さえた今、ここからの反撃はかなり難しい。受験産業は大きなピンチを迎えているのだ。しかしあきらめることはない。ピンチをチャンスに変える方法がいくつかある。

まず、2つ目「思考力・判断力・表現力」と3つ目「主体性・多様性・協働性」の学力を育てる教育手法は、実はすでに存在する。その筆頭が「アクティブラーニング」という手法で、先生は基本的に問いを与えるだけで生徒が主体的に調べたり話し合ったりして学んでいく授業をする。先生が黒板の前で板書して生徒は黙々とノートに写すといった授業ではない。主役を先生から生徒に変える、という手法を、まずは学ぶべきだろう。

ほかには「好きなことを見つけて伸ばす」というニーズに応える手もある。現在、小学生以下の子どもを抱える保護者の多くは、子どもの将来に「好きなことを見つけてチャレンジしてほしい」と期待している。そのニーズに対して具体的に応えることができれば、3つ目の学力を育てることにもつながる。そしてこのニーズは、これまでの「成績を上げてほしい」「いい学校に行ってほしい」というニーズとは異なる、新しい市場の到来を意味している。

特に、小さな個人塾や新たに教育市場に参入するベンチャー企業にとってはチャンスだろう。大企業化した塾は、これまで詰め込みドリル教育をマニュアル化することで成長してきたため、新たにイノベーションを起こしたくても既存のビジネスモデルは壊せない、いわゆる「イノベーションのジレンマ」を抱えているからだ。その隙間を縫って、新しい教育サービスを世に問うチャンスが、今、目の前にある。

2020年教育改革の波は、これまでの常識にすがりつく塾を敗者にし、新たなイノベーションを起こす塾を勝者にするだろう。しかし大事なのは、誰が勝つか負けるかということではない。入試制度改革を機に、受験産業全体が自らを改革できるかどうかなのだ。なぜなら受験産業も今や教育の重要な担い手、その改革抜きに、日本の教育改革は成し得ないからだ。

宝槻 泰伸 探究学舎 代表

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ほうつき やすのぶ / Yasunobu Hotsuki

高校も塾も行かずに京都大学に進学、という特異な経歴を持つ。大学卒業後すぐに起業。映画や漫画、小説、キャンプなどから縦横無尽に学んだ経験を活かし、小学、中学、高校、大学、教育委員会、PTA、職業訓練校、民間企業など、様々な場所で講師としても活躍。幅広い年齢層に対して提供する授業や研修は、世代を問わず聴衆を惹きつける魅力が評判。現在は、探究学習を柱とした教室「探究学舎」の代表を務めながら、出張授業を通して探究学習を全国に届けている。その教育手法は、雑誌・新聞・テレビなど多くのメディアで紹介されている。出演番組『NHKニッポンのジレンマ』。5児の父。

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