スバル「レヴォーグSTI」予想外に人気の理由 新グレードが果たすブランド向上の役割

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筆者はレヴォーグにあまり良い印象を持っていなかった。ボディサイズは日本の道でも持てあまさず、バージョン3となったアイサイトは最新の運転支援システムに劣らぬ完成度だった。しかし乗り心地は硬く、小刻みな揺れが絶えなかった。長距離を快適に移動するというワゴンらしいシーンには不釣り合いだと感じた。

STIスポーツは乗り心地も改善されている

STIスポーツはその点がしっかり改善してあった。硬めであることは同じだが、鋭いショックを絶妙にいなしてくれるので、不快に感じない。ハンドリングも反応の鋭さは抑えられ、自然な身のこなしになっていた。エンジンのノイズが抑えられたことも手伝って、ボルドーを配したインテリアにふさわしい乗り味を提供してくれた。

富士重工業広報部によれば、「レヴォーグSTIスポーツは、高級なレヴォーグとして買うユーザーが多い」という。おそらくスバルのもくろみもそこにあったはずだ。メルセデス・ベンツのAMGからフィアットのアバルトまで、かつてスポーツイメージを売り物としていた輸入車ブランドは、いまや高級品として販売台数を伸ばしているからである。

STIもその路線を目指して今回の車種を出し、成功に結びつけつつある。おそらく新開発プラットフォームを採用した新型インプレッサをはじめ、各車種にSTIスポーツが設定されることになるだろう。STIスポーツの知名度が浸透すれば、コンプリートカーのtSやSシリーズの存在感も引き立ち、STIブランド全体のイメージアップにつながるはずだ。

初代インプレッサWRX STI

初代インプレッサのSTIバージョンあたりを乗り回していた硬派なクルマ好きは、「STIが堕落した」と感じるかもしれない。でもその考えでいえば、世の中のスポーツカーはすべて堕落している。そしてスポーツカーはブランドで売れる時代になりつつある。

ライドシェアが普及し自動運転が実現に近づく中で、自分の手足を動かしてクルマを操るスポーツカーの価値は、むしろ高まりつつある。さらに日本車にとっては、安くて壊れないという従来の位置付けから、いいものを高く買ってもらうという付加価値型モノづくりへの転換が急務となっている。

スバルは今年50周年を迎えた水平対向エンジンをはじめ、左右対称AWD、アイサイトなどによって、日本の自動車メーカーとしては付加価値で売るスタイルを確立しつつあり、利益率も高い。ただし新興国の自動車メーカーが力をつけつつあるのも事実であり、さらに上を目指す必要もあるだろう。

STIスポーツはその点でも、とても大事な役目を負っているような気がする。今後のスバルの行く末を語るうえで、STIの3文字は重要な鍵を握っているのかもしれない。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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