どこにもない価値を、生み出す人の習性 あなたに「構想」と「アドリブ」はあるか?

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拙著にも書きましたが、口紅を固める機械をつくっていた会社の技術がカレールーにも転用されて、さらにカレールーを固めるためにつくった機械技術が固形マーカーにも応用されるといった、ものづくりにおける「わらしべ長者」のような面白い現象が起きるのは、産業のごった煮のような日本の工業地帯でこそです。それを誰が結び付けることができるかというと、小まめにいろいろな分野を横断的に歩いている人です。

強調したいのは、そんなものは事前に考えて、プランを立ててできるものではないということです。なぜなら、本気で合理的にプランを立てて結び付けようとしたら、あらかじめ化粧品にも食品にも文房具にもくわしくないといけません。そんなわけはありません。

そうではなく果敢にアドリブ的に動き回って、そのときにたまたま結び付くと、よりベターなものが生まれる可能性があるのをいろいろと試してみるということ以外にはありえないのです。そこで良いほうに転がる誤解やアクシデントが起きるという意味では、ドラマ内でのアドリブのような、新しい要素の組合せにその可能性がありますが、それは1人の人間が最後に統合しなければなりません。それを受けてこそプロデューサーです。

小林が宝塚歌劇団をつくったことには、偶然も大きく関与していました。宝塚に温水プールをつくるはずだったのが、ボイラーの性能が弱くプールの水が十分に温まらなかったため、プールを埋めて客席にし、屋内プールを劇場に改装しました。これが宝塚歌劇団の始まりです。

これはもちろん、アクシデントに負けないメンタル的な強さや機転も必要でしょうが、普段からレジャーやエンターテインメントについても一家言持ち、自分でもこんなレビューが見たいというような構想もあったからこそと考えます。

麻雀をする人ならわかるでしょうが、配牌の運不運は誰しも免れませんが、それでも局面ごとに自分がめざす理想、最後の役づくりを考えていなければ、どの牌を残すか捨てるかも決められません。社会でたまたまめぐり合ったネタを活かすも殺すも、自分がかねてからどういう構想を抱いているかに依存します。

プロデューサー的な人材はどうしたら育つのか、という問いの立て方をしているうちは、まだ他者依存です。自分がプロデューサー的能力を高めるにはどうすればよいのだろうか? あえて自問自答するとすれば、「あなたが知らない人と仲良くなったのはいつですか?」と考えてみてください。

そういえば最近知っている人とばかり話をしているな、と思ったら、それは交流が内向きに偏っているということかもしれません。もっと街に出て、見知らぬ人と接していろいろな刺激を受けることに、皆さんがこれからの仕事を進める上でのヒントが多く埋まっているかもしれません。

(撮影:尾形文繁)

『Think!』WINTER2013号

 

『ほぼ日刊イトイ新聞」』で、糸井重里氏と三宅氏の対談が公開されています。こちらもあわせてご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

三宅 秀道 経営学者、専修大学経営学部准教授

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みやけ・ひでみち / Hidemichi Miyake

1973年生まれ。神戸育ち。1996年早稲田大学商学部卒業。都市文化研究所、東京都品川区産業振興課などを経て、2007年早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員、フランス国立社会科学高等研究院学術研究員などを歴任。専門は、製品開発論、中小・ベンチャー企業論。これまでに大小1000社近くの事業組織を取材・研究。現在、企業・自治体・NPOとも共同で製品開発の調査、コンサルティングにも従事している。著書に『新しい市場のつくりかた』(東洋経済新報社)、『なんにもないから智慧が出る』(共著、新潮社)がある。

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