松下幸之助は「部下からの情報」を重視した 経営の神様がしみじみと語ったこと

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部下の話を聞くときに、心掛けんといかんことは、部下の話の内容を評価して、いいとか悪いとか言うたらあかんということやな。部下が責任者と話をする、提案をもってくる、その誠意と努力と勇気をほめんといかん。

まあ、部下からすれば、緊張の瞬間ということになるわね。ところが見ておると、大抵が、部下のもってくる話とか知恵の内容を吟味して、それで、「あんたの話はつまらん」とか、「そういうことは以前やってムダであった」とか、「そんなことは、だれでも考えられる」とか、時には「もう、そんな話なら、わかっておるから、聞かなくていい」とか、そういうことで部下の話を聞かない。そういうことを責任者がやるとすれば、責任者として失格や。

部下の提案が圧倒的に良いものだけならば…

だいたいが責任者より部下のほうがいい提案を、いつもいつもするようならば、一面、その責任者と部下と、立場を替えんといかん、ということになるわね。部下のほうが優秀だということにもなるからな。

そうではない。部下の話は、何回かに一回ぐらい、うん、ええ提案だと、ええ知恵やな、ということになれば、それで十分なわけや。それよりもなによりも、部下が責任者のところへ話をしにくる、提案をしてくる、その行動をほめんといかんのや。「あんた、ようわしのところへきてくれた」、「なかなか熱心な人や」、と言うて、まずそれをほめんといかんわけや。その部下が持ってきた話とか提案の内容は、二の次でいい、早く言えばな。

そうすると部下は、それからなお勉強して、どんどん責任者のところへ話とか情報とか提案とか、そういう知恵を持ってきてくれるようになるんや。なんでもいいから、部下に知恵を持ってこさせる、話を持ってこさせる、それが大事やね。

そやな、部下は話や提案の内容を、極端に言えば吟味する必要はない。さっきも言ったように内容の吟味は上司の心のなかで、頭のなかでやればよろしい。まあ、そう言っても、部下は部下なりに一生懸命考え、研究して提案したり、話をしたりするもんやから、そうアホなものはないよ。経営者は、たくさんの話や知恵のなかから、あるいは知恵を組み合わせ、自分で考えて考えて考え抜いて、ひとつの決断をしていく。そうすれば、大概は間違いなく経営を進めていくことができる。

わしは、よくテレビでまげもん(時代劇)を見るけどな、銭形平次な、子分はなんやったかな、ガラッ八か。あれがいつも「親分、たいへんだ、たいへんだ」といって、親分のところへ駈け込んでくるわな。あれが大事なんや。そういうときに親分が、おまえの持ってくる情報はつまらんとか、あかんとか言っとったら、ガラッ八は、来なくなるわな。もう、ああいう親分のところには行きたくない。そう思うのが人情やで。

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