シリコンバレーで起きている「食の異常事態」 普通のレストランが消えつつある

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シリコンバレーでは「普通のレストラン」が営業できなくなりつつある(写真:Jason Henry/The New York Times)

ここはシリコンバレー、パロアルト市のダウンタウン。かつてここには「ジビッボ」という人気のカジュアルレストランがあり、オープンエアのパティオからはスパイスの効いたモロッコ風エビ料理や、薪の窯で焼かれるピザの香りが街路へと流れていった。

今ではパティオは閉ざされたドアの向こうとなり、曇りガラスで中の様子はわからない。ピザ窯は撤去された。客でにぎわったバーは新興企業のオフィスとなり、閑散としている。いるのは十数人の技術者と自転車、ホワイトボードだけだ。17年間続いたレストランは2014年に閉店し、今ではアメリカン・エキスプレスのベンチャーキャピタル部門と、新興企業のインキュベーターが入居している。

従来型のレストランがごっそり消えている

2008~2015年の間に、パロアルトでは総床面積にして6500平方メートルの小売店とレストランがオフィスに姿を変えた。ITバブルのおかげでダウンタウンの商業スペースへの需要が増加したためだ。

こうした事例はシリコンバレー全域でみられる。レストラン経営者たちによれば、家賃が上昇し、平均給与も上がり、労働力不足が深刻な中で、経営破綻せずに商売を続けること自体が戦いの連続だ。アップルやフェイスブック、グーグルといったIT大手が、レストランではとても出せないような高い給料や手当、特典をエサに大切なスタッフをさらっていってしまうことも少なくない。

シリコンバレーの技術者たちは、通勤から家族の写真の共有の仕方まで、日常生活のひとこまひとこまを自分たちが大きく変えてきたと誇らしげに言う。だがIT企業は地元の外食産業も混乱に陥れてきた。

たしかに産直食材で作った食事を社員食堂で無料で食べられるIT企業の社員にとっては大した問題ではないかもしれない。だがここで暮らすそれ以外の人々にとっては、1食500ドルもする高級レストランと、最近急増しているカウンターでiPadで注文するタイプの弁当店の中間に位置する店がごっそり消えている状態だ。

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