また改修!「F-15」が現役で働き続けるワケ 新型機へのシフトが進まぬ事情とは?

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ところが、金額的な分け前という話になると、電子機器や兵装を手掛ける副契約社が相当な比率を占める。高価で高性能な電子機器や兵装を加えるほど、それらを担当する副契約社の取り分が増える。そのため、主契約社となる機体メーカーから見ると、「アップグレード改修の話があれば仕事が増える」と単純に喜んではいられない。分け前を副契約社に持って行かれて、自社の取り分があまり残らないかも知れないからだ。新型機の納入が進むほうが、よほどおいしいのである。

しかし、ぜいたくを言っていられる状況ではない。冒頭で紹介したボーイング社の場合、米軍向けの新型戦闘機や新型爆撃機で受注に失敗したことから、軍用機部門の仕事確保が課題になっている。同社は2016年9月13日に、米空軍向け新型練習機の試作機を公開したばかりだが、これも競合が3社あり、受注が確定したわけではない。だから「改修でもなんでもいいから仕事が欲しい」というのが本音かも知れない。

機体を運用する空軍にとっての損得勘定は?

実際に戦闘機を運用する空軍にとっては、新型機の導入とアップグレード改修のどちらのほうがいいのだろうか。「今までの機体を使えるアップグレードのほうがコストパフォーマンスがよく万々歳だろう」と感じるかもしれない。しかし、それほど単純な話でもない。

そもそも、アップグレード改修による延命は問題の先送り。いずれまた、新型機導入の問題に直面する。また、五月雨式に改修を実施したり、段階的に改修内容を拡大していったりすると、往々にして、さまざまな仕様の機体が混在する。機体によって対応可能な任務や能力に差異があると、どの任務にどの機体を割り当てるかの調整が難しくなる。もちろん、整備担当者の負担も増える。

そのため、アップグレード改修によって機体の仕様が変わっていく場合には、できるだけ仕様が揃うように形態管理を行うことが重要になる。充分な予算を投入して、一気に全機を同一仕様に改修するのがベストだが、常にそれができるとは限らない。

身近な事例で考えてみよう。会社で使っている多数のパソコンを一気に新型に置き換えられるだろうか。たいていの場合、段階的に置き換えていくだろう。すると、さまざまなメーカーのパソコンが混在したりする。OSやアプリケーションが異なるようなこともあるだろう。結果として、社内教育が面倒になったり、保守管理が複雑になったりする。それと似ている。

また、新造機より安上がりとはいえ、改修のために予算を取られれば、その分だけ他の装備調達計画の予算を圧迫する。米空軍の場合、F-15の改修に予算を取られて、本当に必要としている新型の戦闘機・爆撃機・ミサイルといった装備の調達に影響が生じれば本末転倒だ。古いクルマに乗り続けていたら修理代が嵩んで、買い換えのための予算がなくなってしまうようなものである。

アメリカの場合、どの計画にどれだけの予算をつけるかの決定権を握っているのは議会。「既存の機体のアップグレード改修」と「新造機への置き換え」が対立すれば、それぞれの機体を担当するメーカーの地元を地盤とする議員の間で、利益誘導の綱引きが起きる。アメリカの議会では日常的な光景で、「国としての防衛産業基盤の維持」という建前とは違う世界がそこにある。これもまた、安全保障をめぐるビジネスの一断面である。

実は、ボーイング社は日本に対しても「手持ちのF-15をアップグレードしませんか」とアピールしている。しかし、防衛省はあまり乗り気ではないようだ。対象になりそうなのは、すでに進行中の近代化改修計画から外れた古い機体。これを改修するぐらいなら新しい機体に替えたいというのが本音のようだ。とはいえ、本音が通るとは限らない。米空軍が改修を決定したことを契機に、ボーイング社の売り込みがさらにヒートアップすることは間違いない。

井上 孝司 軍事研究家

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いのうえこうじ / Koji Inoue

1966年静岡県出身。1999年にマイクロソフト株式会社(当時)を退職して著述業に転じる。現在は、得意の情報通信系や先端技術分野を主な切り口として、航空・軍事・鉄道関連の著述活動を行っている。主な著書に「戦うコンピュータ2011」「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)、「ドローンの世紀」(中央公論新社)などがある

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