黒田総裁、あなたの金融政策は間違っている 異次元の金融緩和は、百害あって一利なし

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欧州国債危機から銀行危機においても、一部同様のことが起きたが、ああちらはある程度仕方のないことで、中央銀行が望んだことではなく、各国政府が勝手に財政出動し、各金融機関が勝手に国債バブルを作ってしまったものを、尻拭いさせられただけだから、止むを得ない。

しかし、日本は、国債市場の混乱を、金融市場の根幹の市場を、しかも、どの国よりも異常に膨らんだ危険なソブリン市場を、中央銀行自らが混乱させ、それを意図的にやっているのだ。しかも、それにより、利益を受けるのは海外投機家、損をするのが、国内の脆弱な中小金融機関。日銀がもっとも守らなくてはならないところだ。

あり得ない。

しかし、あれほど知的な黒田氏が、こんな単純なことも予想できなかったのか。信じられない。

誤りはどこから来たのか。

彼は、国債市場を為替市場と勘違いしているのではないか。為替介入と同じで、敵を打ち負かそうとしているのではないか。

黒田総裁の狙いは円安?

為替市場は、敵がいることはある。イングランド銀行とソロスの対決もそうだった。しかし、国債市場には敵はいない。いや、ほとんどいなかったのに、自ら敵を呼び込み、敵を利しているのだ。国債市場では、投資家寄り沿い、利害を共有し、資産市場の緩和効果を実体経済に波及させるよう、手に手を取って進んでいくべきものだ。その一番のパートナーが銀行、預金取り扱い金融機関である。彼らをつぶしてどうするのか。

実は、為替ですら、敵と戦うことは得策ではない。投機家がなびくような流れを作らないといけないし、その流れは、米国ドルの流れに沿わないといけないのだ。

黒田氏は円安だけが狙いなのかもしれない。円安政策は、私は間違いだと思うが、円安メリットを望む立場のエコノミストであっても、国債市場を混乱させて円安にするのは、キャピタルフライトから日本売りの懸念が強まり、もっとも危険なルートであることは、誰でも知っているはずだ。

黒田氏。辞任することはないから、一刻も早く軌道修正をしてほしい。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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