3000万円の元手で3億円の寄付を集めたNPO 「市民科学者」を育てる、高木基金

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特に、助成金を申し込んできた研究者など、一般の支援者と属性が異なる約200人の関係者に対しては、文面を個別にセミオーダーする気の配りよう。「手間をかけて、いいコミュニケーションが取れている」(菅波氏)。

現在46歳の菅波氏は旧・三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)出身。1997年に国際的な環境保護団体WWFジャパンで非営利の世界に移ったのち、団体の運営者を探していた高木基金に誘われ、02年に転職した。「銀行員だったから会計のことはわかるし、WWFでは2万人のデータベースを活用して、どうDMを出すかの分析をしていた」。その経験が今の運営に生かされている。

NPO業界では近年、ビジネス畑出身の人間がマーケティング手法などを駆使して、NPOの運営を軌道に乗せるケースが目立ち始めている。彼らの中には「社会起業家」と呼ばれ、若者のあこがれの対象となる者も少なくない。

平均年収450万円のNPOも

「昔はNPOをやっていると、大人から『いつ就職するんだ』などと遊んでいるように言われた。20年この業界にいるが、今のように若者がNPO業界に入りたがる時代は、以前なら考えられない」。日本NPOセンターの坂口和隆事務局次長は言う。平均年収450万円の大手NPO法人、かものはしプロジェクトのように、業界平均(常勤職員で207万円)を大きく上回る給与を支払うNPOも増加しつつある。

原発建設が計画されている山口県熊毛郡上関町の予定地で、生態系調査を行う研究員

高木基金はフルタイムの職員2人、パート2人で年間の総人件費が614万円と、かものはしプロジェクトのような域には、まだ達していない。

そのため、事務所の業務はワークシェアリングし、各自がダブルワークで日銭を稼ぎ生計を立てている。雑居ビルの4階にある事務所にはエレベーターはなく、トイレも共有だ。それでも、菅波氏が1人で団体を運営し始めた02年当初の人件費が、わずか140万円だったことを考えれば、状況は確実に改善しつつある。

11年3月に起きた福島第一原子力発電所の事故により、地道な活動を続けてきた高木基金への関心は高まっている。11年度には、5000万円の大口寄付金も入った。市民の安全を守る「市民科学者」育成の責務を背負い、菅波氏は今日も手腕を発揮している。

桑原 幸作 東洋経済 記者
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