電機産業はもはや円安だけでは挽回できない 業界利益水準は1970年代並み、なのに株価は4割上昇

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基本的なビジネスモデルの再構築が必要

日本電機工業会(JEMA)の大坪文雄会長が3月15日に発表した見通しによると、13年度の国内電気機器生産は、前年度比1.7%減になる。内訳を見ると、重電機器が1.2%減、家電機器(エアコン、冷蔵庫など)が2.8%減だ。

「円高是正・株価上昇が進んでおりますが、未だ実体経済の回復までには至っておらず」「未だ成長は見通せない状況」としている。「景気刺激策による民間設備投資回復への期待もある」としながら、全体ではマイナス成長を予測せざるを得ないのだ。「円高是正」という言葉が前文と結語に2カ所出てくるが、見通しの説明中に為替レートへの言及はない。つまり、円安が需要に影響するとは見ていないようだ。この報告の静かな口調と、株式市場の熱気との間に、大きな隔たりを感じる。

ところで、「電気機器」には、テレビ、PCなどの「電子機器」は含まれていない。そこで電子情報技術産業協会(JEITA)が提供する13年1月の数字を見ると、国内生産のうち輸出される比率は、電子工業計で74%、民生用電子機器で73%だ。したがって、輸出がかなり増加しないと、国内生産は増加しない。

ところが、「電子工業計」の数字を見ると、輸出は3.2%増だが、生産は前年比14.6%減だ。民生用電子機器(テレビなど)の生産は、前年比で実に47.7%減であり、輸出は21.3%減である。こうした数字から考えると、円安が進んだとしても、テレビなどの輸出や生産が回復するとはとても考えられない。

電機産業は、高度成長を実現する上で重要な役割を果たした。これに変化をもたらしたのは、90年代から顕著になった新興国の工業化だ。

電気機械器具製造業(情報通信機械器具製造業を含む)の11年度の売上高は、90年頃と同じだ。このように売り上げが伸びないことに加え、売上高営業利益率が低下した。60年代までは10%程度の水準だったのに、70年代から低下し、86年度からは3%台を超えることがなくなった。11年度は2.5%だ。この結果、営業利益も急減している。11年度の7400億円は、72年度より少なく、90年度の4分の1でしかない。

本来は、こうした大きな変化に対応して、ビジネスモデルを再構築する必要があった。しかし、05年頃からの円安で利益が復活し、国内工場の建設も進んだ。経済危機で需要が激減したあと、それが重荷になっている。ここ数年の利益の減少で、ビジネスモデルの再構築の機運が生まれていた。株価高騰がそれを阻害しないかと、懸念される。

週刊東洋経済2013年4月13日号

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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