横須賀が横浜や鎌倉と並ぶような日は来るか 転出超過ワースト2位の市が挑む人口増加策
横須賀市が企業誘致を急ぐには理由がある。3時間にもわたる会議で、繰り返し登場したキーワードが「人口減少」だ。実際に横須賀に行ってみると、中心部にはタワーマンションがそびえ立ち、幹線道路沿いには巨大なイオンや飲食店が並ぶ。子育て世代からシニア世代まで、一見すると街は賑わっていて人口減少のイメージとは遠い。しかし、2015年の転出超過数は全国でワースト2位、というのが横須賀市の実態だ。
人口減少の大きな要因として、谷戸(やと)と呼ばれる山間部で空き家が増加していることや、工場地帯と横須賀リサーチパーク(YRP)からの大企業の撤退などが挙げられる。吉田市長によると、大企業の撤退の影響は特に大きく、撤退後2年間は市からの転出が断続的に増えていったという。
ITで復活せよ!谷戸とYRPの再活用
そこで、ヨコスカバレーでは、ITを活用した谷戸、YRPの再利用に取り組んでいる。たとえば、ヨコスカバレーボードメンバーの相澤社長は、谷戸地区にある空き家をリノベーションし「横須賀谷戸オフィス」として活用。また、都内のIT企業を対象にYRPをオフサイトミーティングとして活用する場合、宿泊費や飲食費を横須賀市が負担する「YOKOSUKA IT Camp」も実施。こちらは、募集後すぐに満員御礼になるほど人気を博した。
長い階段を登らねばならない谷戸や、駅から離れた丘陵地にあるYRP。一見、どちらも不便そうに見えるが、実はインターネットがあればどこでも仕事ができ、都心から離れ落ち着いて開発に集中できる点でIT企業との相性が良い。ヨコスカバレーでは、このほかにも無料プログラミング講座やドローンの活用、アイデアソン、ハッカソンなど、横須賀市をICT企業の集積地にするためのさまざまなプロジェクトを行っている。
この1年、ヨコスカバレー主催の各種イベントなどに参加した企業は83社、470人以上になる。横須賀に移転する企業はまだ一部であるが、企業集積からの人口増加への第一歩を着実に踏み出していると言える。ただし、企業集積だけで本当に人口減を食い止めることができるのだろうか。
たとえば、ベンチャー企業を誘致したとしても、その企業が成長に合わせてより利便性の高いエリアへ移転してしまうかもしれない。また、在宅勤務の促進、人工知能(AI)の活用、スモールビジネスの増加で、そもそも大きなオフィスや大量の従業員を必ずしも必要としなくなることも考えられる。
となれば、企業集積以外の人口増加策が必須になる。この点について吉田市長に尋ねると「減った分の人口の消費のパイを外からのお客さんで補いたい、つまり、横須賀にとって観光はとても重要なカギなんです」との答えが返ってきた。
実際、横須賀には魅力的な観光コンテンツがそろっている。旧海軍の歴史や、三浦半島の魚介類、朝採れ野菜などはシニア世代にウケが良さそうだし、ネイビーバーガーやチーズケーキなどは若い世代に刺さりそうだ。また、東京湾唯一の無人島猿島は、専門ガイドを養成し自然と触れあう旅を楽しめるというから、ファミリー層の開拓が見込める。ただし、「観光施設、エッジの効いたグルメも増えてきたが、それらが有機的につながっていないのが横須賀の観光の課題」と吉田市長は語る。
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