揺れるミャンマーの行方は、日本にも重要だ ミャンマー連邦のカギとなるパンロン会議

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一方、政府はなんとか武装闘争をやめさせようと努力してきたが、今日に至るまで成功していないのが現実であり、政府としてはその対策上強力な「国軍」が必要である。

しかし、民主化勢力にとって「国軍」は民主化を妨げる敵であった。その本質が露呈されたのが1990年の総選挙であり、アウン・サン・スー・チー氏が率いるNLD(国民民主連盟)が大勝したが、時の軍事政権は選挙結果を完全に無視して政権の移譲を拒否した。それ以来、「国軍」は民主化に対する反対勢力となっており、民主的に選ばれた政権への移行が実現した今でも、議会では4分の1の議席を憲法上確保しており、国政に対して決定的な影響力を有している。

民主化勢力にとって「国軍」は敵でもある

つまり、民主化勢力にとって、「国軍」は必要な友であると同時に敵でもある。また、「国軍」としては少数民族の武装闘争を鎮圧しなければならないが、過度の民主化には抵抗せざるを得ない。さらに少数民族としては、正当な要求を聞き入れてもらえずやむを得ず戦うが、敵は「国軍」だけでなくビルマ族主体の政府であり、NLDである。

やや単純化して説明したが、ミャンマーにおいては民主化勢力、「国軍」それに少数民族の主張がかみ合っていないのが現実であり、いわばこれらは三つどもえの関係にある。そのうち民主化勢力と「国軍」の関係についてはかねてから光が当てられてきたのに比し、少数民族問題は、大きな変化がなかったせいもあり注目されてこなかったが、今、そのような状況は大きく変化し、3勢力の三つどもえ的状況が前面に表れつつある。

軍政から民主政権への移行の懸け橋となったテイン・セイン大統領時代に武装勢力との停戦が一定程度進展し、2015年10月、20近いと言われている武装勢力のうち8つの勢力と停戦に合意した。この合意は政府と少数民族との間で実現した一つの重要なステップと見られているが、半数以上の武装勢力が合意を見送ったのであり、新政権が目指す少数民族の民主政治への組み入れにはほど遠い。

アウン・サン・スー・チー氏は全少数民族との対話を重視し、2016年3月に新政権が発足した後、ビルマ族、各少数民族、武装グループがすべて参加する大同団結会議を開催する方針を打ち出した。69年前に父アウン・サン将軍が試みたパンロン会議にならった構想であるが、それと区別するため今回の会議は「21世紀パンロン会議(以下単にパンロン会議)」と呼ばれている。

この会議には各民族代表だけでなく、民主化勢力も軍も含め3つの勢力すべてが一堂に会するのであり、パンロン会議構想は正しい方向に向いていると思われる。

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