南米から「赤い丸ノ内線」が里帰りしたワケ 「地下鉄車両の基礎」を走れる状態で保存へ

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雨の環八通りを走る旧丸ノ内線車両(撮影:尾形文繋)

現地で昨年12月に廃車となった4両は、今年5月上旬にアルゼンチンから横浜を目指して出港。約2カ月の船旅を経て7月11日に大黒ふ頭(横浜市)に到着し、同月21・22日の未明に2両ずつトレーラーにて中野車両基地に搬入された。現在は同基地に留置されており、これから補修に向けた具体的な調査を行う予定だ。

補修の完了後は社員の研修用のほか、イベントなどでの活用も予定している。遠藤さんは「せっかく動く状態にするのであれば、お客様への還元としてイベントなどで活用していきたい」と語る。

ただ、車両基地内などはともかく、丸ノ内線の営業路線を走る姿を見るのは難しそうだ。「ブエノスアイレス側にも『里帰りしたら、桜が満開の四ツ谷を走る風景の写真を送ってくれ』と言われたが、それは難しい」と吉橋さん。本線上を走らせるとすると、ATC(自動列車制御装置)などを積まなければならないといった問題があるためだ。補修の目標はあくまで「動かせる状態にすること」と吉橋さんは説明する。

復活はいつになる?

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中野車両基地に搬入された車両。ドアの上にブエノスアイレス地下鉄の運行会社「Metrovias」のロゴが残っている(撮影:尾形文繋)

いつ補修を終えるのかについては「細かい調査をこれから行うので、現状ではいつまでに補修するかを明確に答えるのは難しい」(遠藤さん)という。だが、東京メトロにとって来年は一つの節目となる年だ。2017年12月は日本初の地下鉄である銀座線が開業してからちょうど90年に当たる。このタイミングに合わせて赤い丸ノ内線電車が復活すれば、大きな注目を集めるに違いないだろう。

実は、東京メトロの電車の国内からの里帰りには前例がある。1994年に全車が引退し、多数が長野県の長野電鉄に譲渡された日比谷線の「3000系」だ。長野電鉄での活躍を終えた2両が2007年に東京メトロに戻り、走ることのできる状態で保存されている。こちらも主な目的は「技術の伝承」だが、一般向けのイベントでも公開されている。

巨大都市東京の発展を支えてきた地下鉄。東京メトロのいう技術の伝承はもちろん、都市の歴史を語る文化遺産、鉄道技術の歴史を伝える産業遺産としても、貴重な車両が動く状態で保存される意義は高い。ロンドンやニューヨーク、パリなど、古くから地下鉄網が発達した都市では、歴史的な旧型車両が動く状態で保存され、イベントなどで実際に本線上を走る姿を見ることができる。里帰りを果たした、かつての地下鉄の象徴である「赤い丸ノ内線」が、多くの人の目に触れる形で保存されることを期待したい。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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