日銀、株価を狙った政策に陥るも結果は不発 一本足打法で手詰まりを露呈

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7月にバーナンキ・前FRB議長が来日し、安倍晋三首相と会談して以降、日銀がヘリコプターマネー政策に踏み込むのではないか、という観測が浮上した。さまざまな定義があるが、ヘリマネ政策とは、国債ではなく、返済予定のない貨幣でファイナンスした財政政策のこと。29日の記者会見でもヘリマネ政策に関する所見を尋ねる質問が出た。

中央銀行が金融緩和政策、政府が財政支出を拡大し、これらの相乗効果によって景気刺激効果をより強めることを「ポリシーミックス」と呼ぶ。29日の会見で、黒田総裁は「こうしたポリシーミックスは、政府による財政資金の調達を手助けすることを目的とする財政ファイナンスでもないし、中央銀行マネーの恒久的な増加を原資として財政支出を行う、いわゆるヘリコプターマネーともまったく違うと考えている」と述べ、現在年間80兆円のペースで国債を買い上げる政策は財政ファイナンスでもヘリマネ政策でもないと説明した。

だが、日銀がすでに国債の発行残高の3割超、400兆円近くを保有(7月20日現在で380兆円)していることを考え合わせると、もはや政府と日銀を一体として考えることが適当だろう。この点、29日の声明文で「きわめて緩和的な金融環境を整えていくことは、政府の取り組みと相乗的な効果を発揮する」と明記されたのは意味深長だ。

実態は財政ファイナンスではないのか

決定会合の3日前の26日、最新の内閣府による『中長期の経済財政に関する試算』が経済財政諮問会議に提出された。10%の消費増税を2019年10月に見送ったのにもかかわらず、2020年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支)は5.5兆円の赤字、対名目GDP比で1%まで縮小することが示された。

しかし、これは名目で3%以上、実質で2%以上という相当無理のある高い成長率を前提とした試算だ。日本経済の実力により近いベースラインケース(名目1%半ば、実質1%弱)だと、20年度の赤字は9.2兆円、対GDP比で1.7%も残る。

今のところこれらの赤字をどうやって埋めるのか、明確な説明やプランはない。黒田総裁がいくら否定しようと、「国債を年間80兆円ペースでどん欲に買い上げる日銀」と「流れる赤字を止血しようとしない政府」という組み合わせは、財政ファイナンスというよりほかないのではなかろうか。
 

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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