巷の「BABYMETAL論」は、ほぼ間違っている この3人組は、なぜ世界で成功できたのか

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実際、アニメ、和食とともに、BABYMETALをエンターテインメントビジネス輸出の成功事例としてとらえ、J-POPカルチャーをマネタイズするうえで見逃せないという論点はこれまでもあった。実際、筆者もそこが興味の入り口だった。

しかし、今回、ファンへの取材を通じて感じたのは、BABYMETALの事例は“テンプレート化”が極めて難しいということだ。この事例はひとりの少女の才能を活かす過程で生まれた、偶然の要素が強いプロジェクトだったように思う。

こちらがAP Music Awardsのライブ映像

一方で、エンターテインメントビジネス全体を見たとき、“モノからサービスへ”とコンシューマ市場におけるお金の流れが変化している中にあって、動画共有サイトやSNSを通じた新しいコンテンツビジネスの形を示しているとは言えるだろう。

消費者は実用品には最低限の金額しか支払わないが、エンターテインメント(娯楽)の値付けに上限はない。かつてソニーが成長した理由は、家電の技術をエンターテインメントに応用したからだった。しかし、エンターテインメント製品が当たり前の存在となり、さらにスマートフォンに多様な価値が集約されたことで、可処分所得の行方として相応しい分野ではなくなってきた。

高級テレビやオーディオ機器に50万円を支払っていた消費者は今、1万円を使って食事会や美容、健康サービスなどに所得を消費する。極論だが贅沢な一品を買うよりも、50回の食事会に参加したほうが持続的に満足感を得られる。昨今、美容、健康、音楽ライブ、食事などが盛り上がってる背景には、消費者の“エンターテインメント”に対する捉え方とお金の使い方の変化がある。

日本だけの潮流ではない

しかも、この流れは日本だけで起きているわけではなく、グローバルでの大きなメガトレンドだ。CD売り上げの低下と交錯するように、ライブでの売り上げが増加しているのである。こうした背景を考えれば、ライブパフォーマンス指向が極めて強いBABYMETALは、現代の音楽ビジネスがその形を変えていく中、新しい時代に完璧にフィットする形で活動していたことがわかる。

すなわち、メディア露出で売り込み、大量の物販を通じてビジネスを成立させるのではなく、露出を制限してライブパフォーマンスに人を動員することにフォーカスしたことが、BABYMETALの国内での成功、そしてその後の海外での大成功、凱旋といった現象につながっていったのではないだろうか。

もちろん、彼女たちが今後、どこまで成長するのか、どこまでプロジェクトとしてのBABYMETALが続けられるのか。おそらくBABYMETALの生みの親でさえ想像できていないのではないだろうか。

話をきいた3氏は、いずれもBABYMETALというプロジェクトは終わってしまうのではないか……と毎年のように心配していたという。武道館で2日間のライブを成功させ、海外ツアーに出かけて大失敗して帰るパターンもあったかもしれない。3人が成長し、成人になったときにBABYMETALが続けられるのだろうか、という心配もあるようだ。

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