松下幸之助は「素直な心」が成功の要と考えた 人間には進歩発展する本質が与えられている

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だが、その両親はどうして存在したのだろうか。両親のそのまた両親からではないのか。その両親は、そのまた両親からということになるのではないか。それではその両親はと、どんどん考えていくと、ついには人間の始祖になる。とすると、人間はみんな始祖とつながっている。今日私たちがこうして存在していることは、両親やそのまた両親に感謝しなければならないのはもちろんのこと、初めての人間、すなわち始祖に感謝しなければ、とそう思ったという。

「ところがふと、それでは初めての人間はどこから生まれてきたのか、と思ったんや。いろいろ考えたんやけど、今度はそう簡単に答は出てこん。ずいぶんとあれやこれやと思いめぐらした結果、人間は宇宙の根源から、その根源のもつ力によって生み出されたんやと、うん、突然そうひらめいた。

そうや、宇宙の根源から生まれてきたんや。それは人間だけではない、宇宙万物いっさいがこの根源から、その力によって生み出されてきたんやと考えた。実際にそうかどうかは、わしは見ておったわけやないからわからんけど、そう考えるほうが便利いい」

「ここに存在できていること」への感謝の思い

「その根源の力にひとつの決まりがある。それが自然の理法というもんや。そしてその力には宇宙万物すべてを生成発展せしめる力があると。前に自然の理法は生成発展やと言うたのは、そういうことやったんや」

今日私たちがここに存在している、その源をたどれば、初めての人間を通り越して宇宙の根源にまでにいたる。そうすると、「ここに存在できていること」への感謝の思いは、実にこの宇宙の根源に対してでなければならないということになる。それで松下は、根源の社をつくった。

私はあるとき、ひょいと「根源の社の前にお座りになって、そのあいだ何を考えているのですか」と尋ねたことがある。

「うん、今日、ここに生かされていることを、宇宙の根源さんに感謝しとるんや。ありがとうございます、とな。それから、今日一日、どうぞ素直な心ですごせますように、すごすようにと念じ、決意をしとるわけや。ここはわしが感謝の意を表し、素直を誓う場所やな」

読者に根源の社を押しつける気持ちはまったくない。ただ、自分がそういう宇宙根源から、そして人間の始祖から連綿とつながっていると思えば、おのずと自分の値打ちの重さを感じる。そう感じれば、おのずと自分の人間としての重さを自覚する。そして、感謝の念が湧いてくる。

この感謝の気持ちを持ちながら、日々をすごすことが大切だと思うのである。

松下の毎日は感謝の日々であったといっても言い過ぎではない。それでもなお、感謝の思いが足らないと言って反省することが多かった。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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