老後資産形成は「考えない」ほうがうまくいく 確定拠出年金のプロが教える投信の買い方

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現実に確定拠出年金では、多くの場合、国内株式、外国株式、それも先進国と新興国に分けて投資することができるように、複数の商品が用意されています。また株式だけではなく、債券も国内、海外先進国、新興国のものが株式同様にラインナップされていますから、これらを組み合わせることで、世界の市場全体に分散投資することができるようになります。

ここでもうひとつの問題があります。日本や先進国、新興国に分散して投資するのはわかりますが、具体的にその比率をどうすればいいのかということです。ここでもあれこれ思い悩んだり、恣意的に比率を決めたりする必要はありません。単純にそれぞれの国や地域の市場規模や経済規模に合わせて、配分比率を決めればいいのです。

具体的に言うと、2016年4月時点での株式市場の規模は、世界全体を100%とすると先進国83.4%、新興国8.2%、そして日本が8.4%ですから、原則はこの比率に従って決めればいいということになります。ただ、こうすると外国株式の割合が9割以上になってしまうので、不安だと思う方がいるかもしれません。その場合は自分の判断で日本株を増やしてもかまいません。

確定拠出年金だけで分散投資しても意味はない

ただ、ここで注意しておくべきことは、分散投資本来の考え方です。分散投資が最も効果を発揮するのは、自分の持っている資産全体で行った場合です。多くの人にとって確定拠出年金は自分の持っている資産のすべてというわけではないでしょう。だとすれば、確定拠出年金の中だけで分散投資をしてもあまり意味がありません。自分のその他の資産も併せて考慮したうえで、分散投資をすることが大切です。

株式や投資信託を持っていない人はいても、定期預金を持っていないという人はほとんどいないでしょう。だとすれば、確定拠出年金では預金よりも投資信託を優先して活用すべきではないかと思います。しかも確定拠出年金はどれだけ利益が上がっても課税されません。だとすれば、できるだけ期待リターン、すなわち“儲かる時は儲かる”という可能性の高いものを非課税扱いにしておくべきだと思います。したがって、確定拠出年金で何を買うかということを考えた場合、すべて投資信託で運用するのがもっとも合理的な判断と言えるでしょう。

もちろんリスク許容度は人によってさまざまですから、必ずしも投資信託にしなさいということではありません。しかし、生涯を通じた老後資産形成を考えた場合、今後起こりうるインフレなどの要因も考えれば、一定額を投資信託、それも世界経済全体に投資する形にしておくことは極めて有効な方法だろうと思います。

あれこれ思い悩んで売買や入れ替えのタイミングを考えるよりは、シンプルに市場全体に連動する資産配分にして、あとは放ったらかしにしておくのが最も手のかからない、それでいて最も合理的な資産運用ということが言えるのではないでしょうか。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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