「ベンチャーブーム」に漂う熱気と一抹の不安 過去に例のない資金調達だが選別も始まる
「ブームですね」
いま、ファンドを組成してベンチャー企業への投資を手がけるベンチャーキャピタル(VC)各社に事業環境の認識について尋ねると、こんな答えが異口同音に返ってくる。
ベンチャー企業に流れ込む資金が記録的な規模に
最も象徴的な現象は、ベンチャー企業に流れ込む資金が記録的な規模に膨らんでいることだ。ベンチャー企業やVCの動向を幅広く調査しているジャパンベンチャーリサーチ(JVR)によると、2015年の未公開企業の資金調達額は1532億円だった。これはボトムをつけた2012年の約2.5倍、直近ピークである2006年の1464億円を超えている。
週刊東洋経済は7月23日号で『すごいベンチャー100 日本を立て直せ』を特集。ベンチャーブームの最前線を追っている。多額の資金が向かう先はいま流行のテーマを映し出している。2015年注目の投資テーマは、金融とITを融合した金融の新潮流「フィンテック」だった。個人向け自動家計簿・資産管理サービスの「マネーフォワード」やクラウド会計ソフトの「freee」など、ある種わかりやすいビジネスモデルのフィンテック企業に資金が流入した。
書店の関連コーナーやセミナーでは、フィンテック人気が相変わらず続いているようにみえるが、ベンチャー関連資金の流れをみる限り、2016年に入ってフィンテックブームは変調気味だと言える。JVRの北村彰代表は「仮想通貨など、評価がまだ定まっていないフィンテック関連分野の資金調達が伸び悩んでいる。代わりに今年伸びているのがロボットやAI(人工知能)関連」と指摘している。
昨年5月に現職の首相として初めてシリコンバレーを訪問した安倍晋三首相の例を引くまでもなく、政府のベンチャー支援も手厚くなっている。
大学を経由したベンチャー投資資金は太く、大きな流れになっている。政府は2012年度補正予算で東京大学(417億円)、京都大学(292億円)、大阪大学(166億円)、東北大学(125億円)の国立4大学に総額1000億円のベンチャー関連予算を配分した。しかし、最大規模の東大に配分された417億円は、民間VCが組成するファンドサイズ(50億~100億円)と比べても段違いに大きい。ビジネス感覚や経営経験のない大学関係者が本当に良い形でベンチャー投資をこなせるのか、不安が残る。
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