「ベンチャーブーム」に漂う熱気と一抹の不安 過去に例のない資金調達だが選別も始まる

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米国では、運用難に苦しむヘッジファンドやミューチュアルファンドの資金が未上場企業の資金調達を支え、ユニコーンブームが起きていた。「今の1ビリオンが上場時には10倍になる」。バブル時によくある強気ムードは昨秋、スマホ決済大手スクエアが評価額を大幅に切り下げて上場したあたりから一変した。

シリコンバレーのVCに投資している伊藤忠テクノロジーベンチャーズの中野慎三社長は「去年後半からユニコーン企業の資金調達がひどいことになっている。資金調達できても半値八掛け。まだつぶれたところはないが、今年後半には資金繰りの問題が出てくるはず。ベンチャー選別の時代が始まった」という。

少しずつ良い回転が起き始めているとはいえ、日本のベンチャー界にも課題が山積している。

まずVCの規模。資金調達額は過去にない規模に膨らんでいるとはいえ、2兆円とも4兆円とも言われる米国と比べると、一ケタ違う。ファンドサイズが小さいため、成長の都度、資金調達を行っていくベンチャー企業側の資金ニーズを息長くフォローし続けることができない。

年金投資家の腰も重い。JPモルガン・アセット・マネジメントによると、長引く債券利回りの低下などを受け、機関投資家はオルタナティブ投資を拡大しているが、VC投資に手を出すところまでには至っていない。短中期の景気変動に左右されず、ベンチャー企業を安定して資金支援するには、年金基金など長期安定的な資金の支えが望ましい。

ブームを根付かせることができるかが問われている

ベンチャー投資の出口の多様化も求められる。日本取引所グループによると、今年1~6月のIPO件数は41社。景気や規制によって上場社数自体が変動しやすいうえ、個人投資家が多く、相場自体も振幅しがちだ。毎週ベンチャー企業を集めたイベントを開催しているトーマツベンチャーサポートの斎藤祐馬・事業統括本部長は「米国の場合、ベンチャー投資の出口はIPOが1に対し、M&Aが9。これに対し、日本はちょうどその逆。未上場企業でも資金を集められるのは、ベンチャーエコシステムの成熟度を示している」と指摘する。

また、事業会社のベンチャー投資は熱しやすく冷めやすい。前出のNTTドコモ・ベンチャーズの秋元副社長は「コーポレートベンチャリング(CVC)ブームが一過性に終わるのか、それとも根付かせることができるのかが問われている」と話す。

さらに、シリコンバレーから日本発ベンチャー企業への出資などを行っているWiLの伊佐山元CEOは「米国のようにベンチャーキャピタリストが産業として認知されるための最大の障害が人材不足だ。日本は金融界やコンサルタントの出身者が多く、大企業の製造業にいた第一線級の人材が、産業を育成する側にまわるという流れがまだできていない」と指摘する。

今回のベンチャーブームを地に足のついたものにできるのか。真価が問われている。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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