欧州の洪水は北半球規模の猛暑の前触れか? ユーラシア大陸東西の異常気象の共通点とは

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大雨による増水に見舞われたセーヌ川。パリで6月2日撮影(写真: ロイター/Jacky Naegelen)

国内外での気象研究歴が長い吉野正敏・筑波大学名誉教授(88)による寄稿も後編となった。今回は、温暖化を背景として夏場の日本と欧州との異常気象が似通ってきた点を踏まえ、気象が人間の健康に与える影響を研究する学問「バイオクリマ(生気候)」の観点から見た課題などを語ってもらった。
前編 注意!猛暑最高記録「41℃越え」が迫っている

今回は欧州を中心に、世界的な異常気象の現状について紹介するとともに、バイオクリマの観点から、猛暑への心構えについて説明したい。

今年の6月はフランスの洪水のニュースから始まった。5月末以降の大雨でパリ中心部のセーヌ川を濁流がとうとうと流れる画像には驚かされた。フランス国有鉄道は運転を停止、ルーブル美術館やオルセー美術館は緊急閉鎖し、収蔵品を階上に避難させた。

パリとフランス中央部で約2万5000人が停電の被害を受け、パリ南部のヌムールでは3000人が避難。南ドイツでは洪水で道路が寸断され、街に瓦礫の山が築かれたところもあり、死者4人を出すと共に、数千世帯が停電。ドイツ南西部のネッカーウルムにあるアウディの工場も浸水して、操業を5月30日から3日間停止した。ベルギーやオーストリアでも洪水が発生した。

約100年前との違い

1910年以来の規模の大洪水だとして、パリ各地の多くの場所で、当時と同じアングルで撮影された橋と川の写真などが新聞の紙面などを飾った。8.6メートルの水位上昇の異常さを示す約100年前と今年の写真には時代を超えた迫力があったが、どの報道も触れていなかったことが1つある。

それは、「水位は確かに同じだが、1910年の場合には多数の木材・雑物がひっかかって、橋がちょうどダムの堰堤のようになっていた」ことだ。しかし、今年の写真では、橋桁の近くで水が渦をまいているだけである。上流で流木などをとるシステムが完備したのか、上流流域で森林・緑地の整備・管理がゆきとどくようになったのか、木造の建造物が少なくなったのか、理由はいろいろと考えられる。

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