前回のコラムでは、「日本の電子出版市場のほとんどを占め、ビジネスとして成立してきたのは、BL(ボーイズラブ)、TL(ティーンズラブ)を中心の漫画コンテンツ販売と、アップルの単体アプリ書籍ぐらいである」と指摘した。
漫画以外の電子書籍は、まだ単独ではビジネスとして存在するのは難しい。特に、文芸書、ビジネス書、ノンフィクション書などの一般書籍は、単体で電子書籍をつくったら、それこそビジネスにならない。それでも出版社が電子書籍化に励んでいるのは、制作自体が紙と同時進行であり、紙の収益が見込めるからにすぎない。
しかし、それも大手出版社の話で、中小にとっては、電子書籍などとんでもない話になる。コストを考えたら、自社でできるものではない。この出版不況の中で、各社、必死に回転操業をしているからだ。
回転操業というのは、再販制度のフル活用であり、定価販売で返本が利くという紙の流通の特殊性から、新刊を出しては仮の売り上げ、利益を立てるというやり方だ。
電子書籍では、「カラ売り」ができない
たとえば、決算が迫ったら、期末に大量の新刊を出し、取次経由で書店に仕入れてもらう。こうすると仮の売り上げと利益が立つ。そうしたら決算期をまたいでから返本を受け付けて、そこで損失を計上する。まさに「カラ売り」だが、ほとんどの出版社がこうしたことをしているのだ。
これが、電子書籍ではできないのだから、出版側から見たらよほど売れなければ、電子書籍などやれないのだ。
日本には、アメリカで電子書籍がブレークする以前から電子書籍を売ってきた「電子書店パピレス」や「イーブックイニシアティブジャパン」など老舗の電子書籍販売サイトがある。パピレスは2012年3月期決算で売上高約47億円、イーブックは11年1月期決算で売上高21億円と好調で、両社とも成長している。しかし、それを支えているのは、一般書ではない。BL、TLもの中心の漫画コンテンツである。
もし、これらのコンテンツがなかったら、日本の老舗電子書店はみな潰れていただろう。
こうした状況の中、アマゾンの「キンドル」が上陸し、「キンドルストア」がオープンしたのである。「キンドルストア」の評判は、なかなかいいようだ。実際、これまでの日本の端末やサービスに比べて、「キンドル」が圧倒的なアドバンテージを持っているのは確かだ。
しかし、それだけでは、現在の日本の「電子出版ガラパゴス状況」を克服できるとは言えないのだ。
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