ルネサスに巨額出資 国が背負った十字架 官製ファンドが1383億円を引き受け

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ところが、トヨタが「中国企業に事業売却されるのでは」と不安を募らせたことなどで風向きが一変。KKR関係者は、「顧客を敵に回すような行動はしない」と不安解消を図ったが、流れは止められなかった。一方、外資脅威論に乗っかる形で経産省は動きを活発化。10月時点では「経産省が思惑で動いている」と革新機構幹部も困惑していたほどだ。

10日の会見で、革新機構の能見公一社長(=記事トップ写真)は「個別案件で経産省から指示、口出しをされたことはない」と強調したが、経産省関係者は「国による救済ととらえてもらって構わない」とあっさり認める。

次の焦点はシステムLSI

今回の支援策でルネサスは復活できるのか。

自動車用マイコンで世界シェア42%、汎用マイコンで同27%を誇るルネサスが利益を出せないのは、システムLSIという赤字事業の存在と高シェアのマイコン事業でも十分な利益を稼げていないため。背後には、余剰な人員と拠点を抱える高コスト体質と顧客の無理な要求に応じ続ける下請け体質がある。

国の出資でどこまでリストラを進められるのか。顧客企業の出資により、不採算製品からの撤退や値上げ交渉が難しくなるおそれもある。実際、5億円を出資するパナソニックの津賀一宏社長は「値上げされると困る」と本音を漏らす。対して、革新機構は「3分の2を出資する以上、リーダーシップを発揮しやすい経営環境を整える」(能見社長)と反論するが、そもそも経済合理性で行動するのであれば、民間のファンドを押しのけて革新機構が乗り出す必要があったのか疑問はぬぐえない。

次の焦点は、システムLSI事業のリストラだ。国内の半導体メーカーはどこもシステムLSI事業で苦戦しており、過去に何度も業界再編の交渉が行われてきた。今春にはルネサスと富士通、パナソニックがそれぞれ同事業を切り離し、革新機構が出資して3社統合会社とする計画が表面化。だが、条件の詰めで綱引きが続いており、話し合いはまとまっていない。

革新機構は7~8年かけてルネサス再建を目指すとしている。再建に失敗すれば、その損失は税金が被ることになる。国が背負った責任は重い。

(撮影:風間仁一郎)

(週刊東洋経済=2012年12月22日号

前田 佳子 東洋経済 記者

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まえだ よしこ / Yoshiko Maeda

会社四季報センター記者

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