1ドル106円台、週明けの日本株は急落へ 6月の米利上げの可能性は「ほぼゼロ」に

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ニューヨーク為替市場では、ドル円相場は108円91銭から106円51銭へ急落し106円54銭で引けた。「市場は雇用統計に過剰反応した」という声もあるなか、雇用統計後に発表されたISM(米サプライマネジメント協会)の5月非製造業景況指数(総合)も52.9と、市場予想55.3を大幅に下回ったことも加わり、ドル売りに拍車がかかった。結局、市場は失業率などポジティブな内容はほぼ無視し、ネガティブな内容にだけに超反応を示した格好だ。

シカゴ・マーカンタイル取引所が算出している、米国政策金利の市場予想を示すFF金利先物、通称「Fedウオッチ」では、雇用統計発表前に6月のFOMCで利上げ実施を予想する割合は22%だった。だが、4日の時点(東京時間の午前7時)ではわずか3.8%となってしまった。

「Fedウオッチ」を詳しく言うと、「米フェデラルファンド(FF)レート先物から利上げ時期の確率を割り出した指標」のことだが、要は「市場関係者が利上げをどれだけ見込んでいるか」ということだ。このFedウオッチの変化を見る限り、6月の利上げはほぼ無くなった。数値がゼロではないので「ほぼ」としているが、3.8%=ゼロと捉えても問題はないだろう。一方、7月を見ると、発表前は60%ほどだったが、こちらも30%とほぼ半分と大きく下がっている。7月の米利上げ観測についても後退した、ということだ。

再び為替は1ドル100円方向、日本株は低迷へ?

ダウが前日比31ドル安の1万7807ドルにとどまるなど、米国株の下げは小幅にとどまったが、為替も日経平均先物もきつい下げとなった。米国の利上げ時期が遅れることは、金融引締めが遅れるわけなので、米国株からするとウェルカムな状況だ。だが、ドルを積極的に買うことはできないことから、ドル売りが進みやすい。ドル売りは日本株の下げ要因なので、日経平均先物は大幅安となったわけだ。市場コンセンサスが「米国の利上げは年1回程度」となれば、ドル円は再び5月3日につけた1ドル105円半ばを割り込み、1ドル100円という水準も覚悟しなくてはならないかもしれない。

すでにルー米財務長官は「日本経済が内需主導型の成長を取り戻すために、政府が財政支援を行うべき」と提言していたが、筆者も同感だ。円安という追い風で、昨年日経平均は2万円の大台を回復したが、現在は向かい風が吹いている。内需を刺激する経済政策を前倒しで実施する以外、日本株を引き上げる術はないかもしれない。

さらに効くのは、「痛みを伴う構造改革」を、参議院選挙後に実施するのではなく、選挙前に骨子だけでもいいから発表することだ。従来できていなかったものなので、参議院選挙後に実施するかどうかもわからず、環太平洋連携協定(TPP)や農協改革がどこまで進むかも不明だ。だが、一連の改革を一気に進めるなど、思い切った施策が必要な状況だ。早い話、構造改革や規制緩和をポジティブに捉える外国人投資家を刺激すれば、日本株は息を吹き返すだろう。

安倍政権にとってみれば、「オバマ大統領の広島訪問効果」で、今回の参議院選挙は乗り切れるかもしれない。だが、その後は日本株低迷→株高での景気浮揚効果望めず→日本経済の先行き不透明→選挙苦戦といった構図となる可能性がある。6日以降の日本株から目が離せない状況になってきた。

田代 昌之 マーケットアナリスト

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たしろ まさゆき / Masayuki Tashiro

北海道出身。中央大学文学部史学科日本史学科卒業。新光証券(現みずほ証券)、シティバンクなどを経てフィスコに入社。先物・オプション、現物株、全体相場や指数の動向を分析し、クイック、ブルームバーグなど各ベンダーへの情報提供のほか、YAHOOファイナンスなどへのコメント提供を経験。経済誌への寄稿も多数。好きな言葉は「政策と需給」。ボラティリティに関する論文でIFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格(MFTA)を取得。2018年にコンプライアンス部長に就任。フィスコグループで仮想通貨事業を手掛ける株式会社フィスコデジタルアセットグループの取締役も務める。

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