竹中平蔵(上)「リーダーに必要な3つの資質」 世界のリーダーと日本のリーダーの違い

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世界に通用するリーダーになるために、アートの素養は極めて重要だ。実は小泉さんが海外のリーダーから高く評価された理由の1つは、文化に造詣が深かった点にある。

大震災のあとに、被災地に入ったジャーナリストが、「何が欲しいですか?」と被災者の人たちに聞いたところ、最初の人は「水が欲しい」と言い、2番目の人は「食料が欲しい」と言った。しかし、3番目の人は「歌が欲しい。私たちは人間らしく生きたい」と言った。つまり、歌であったり、彫刻であったり、絵画であったり、パフォーミングアートであったり、そうしたアートの中に人生の価値が集約されている。

哲学者のニーチェは、「アートこそが世の中の最高のものであって、人間を人間として生きさせる根源のようなものである」と言っているが、私もそう思う。同じく、「ソフトパワー」の提唱者であるハーバード大教授のジョセフ・ナイも「アートは21世紀の見えざる力だ」と言っている。アートは、ソフトパワーの大きな柱の1つだ。

経済学者のジェフェリー・サックスが、マラリアを撲滅するために活動していたが、当初はなかなかうまくいかなかった。しかし、U2のボノがイベントに協力するようになってから、勢いが一気に増した。アートにはそうした力がある。

日本の文化予算は、韓国の5分の1

アートは他のものとは違う非常に特殊なものだ。いい絵が高い値で売れるというふうに、アートの経済的価値と芸術的価値が重なる場合もあるが、そうならないことも多い。だからこそ、社会全体でみんながアートを楽しみ、育てていかないといけない。

現在、日本の文化庁の予算は、約1000億円しかない。これは、国民1人当たりに換算すると、フランスの10分の1、韓国の5分の1だ。つまり、日本は文化にほとんどおカネを使ってない。一方、アメリカの1人当たりの文化予算は、日本のさらに10分の1しかないが、寄付がアートを支えている。すなわち、政府は直接おカネを使わないが、税額控除という形でサポートしている。

国からの補助金も、寄付税制の優遇も、どちらもないのが今の日本だ。このような状況でも、これだけの文化が残っているのは、日本人として誇らしいことだが、手遅れにならないうちに、みんなが文化を支え合うようにしなければならない。

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