日本を「貧困大国」にさせないための処方箋 教育、雇用、住宅の自助努力はもう限界だ

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今野:おカネということでいえば、教育費もなんとかしないとダメでしょう。東大生の親の年収が1000万円以上というのは恐ろしいことですよ。貧困の実態や劣悪な雇用の現場を知らないで育った人間が、将来の為政者になっていくということだからね。

藤田:すでにそうなっていますよ。東大生や京大生のゼミで議論しても、貧困や格差のことをまったく理解していません。国家公務員の研修も同様で、彼らは、日本社会でなぜ働けない人たち、努力したくでもできない人たちが増えているのかをほとんどわかっていないのです。

今野:富裕層はお受験するから、小学校の段階で分断されるんですよ。だから、貧困な友人もいないでしょうし、ヤンキーに殴られるような経験もしてない。だから、多様な立場の人間が社会にいることも、想像することが難しくなってしまうと思います。

藤田:貧困層の子供と一緒に遊んだり、ケンカしたりする経験がまったくないんですよね。だから貧困がどれだけ辛いことなのかを想像することさえできずに、社会人になってしまうんです。

大幅なメスが必要なのは、大学の学費と奨学金

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今野:本来はいろんな階層の人間が入れるはずの国立大学だって、いまやおカネがないと入れなくなってしまいました。

藤田:著書の『貧困世代』(講談社現代新書)にも書きましたけど、この50年ぐらいで学費ほど値上がりしているものはないんですよ。国立大学の授業料にしたって、1969年と比べて、44~45倍になっている。消費者物価は3倍しか上がってないのに。

だから今の学生は、ブラックバイトや奨学金に頼らざるをえない。でも日本の奨学金は、返済の必要のない「給付型」ではなくて、就職した後に返済する「貸与型」です。もう大学生の時から、借金を背負ってしまうわけですよ。

今野:国は「グローバル競争に生き残れ」と威勢よく言うけれど、その出発点で借金漬けにしてどうするんですか、と。

藤田:借金だるまになっている学生は、誰でも一度は公務員を志望するんです。安定志向というか失業しなくて済むような雇用ですね。そりゃ卒業するときに借金抱えていたら、チャレンジなんてできませんよ。ましてや民間企業は不安定な雇用が蔓延していますから。

北欧諸国は、心が優しいから学費を無償にしているわけじゃないんです。おカネの心配せずに高等教育を受けられれば、憂いなく新しい研究も取り組める。そういう学生がイノベーションを起こせば、国の生産性も高まる。そこまで考えて、学費を無償にしているんです。

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