副都心線を救った「見えない難工事」の全貌 2つの工夫で難関をクリア

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新たに連絡線を建設したのは小竹向原〜千川間だ

副都心線・有楽町線・メトロ和光市方面、西武の練馬方面はすでに開通していたので、この4線の平常運行には支障を生じさせないように留意しての工事となった。工期の初期には、壁の剥落によるケーブル切断事故など、運行に影響を与えるトラブルもあったが、以降はより慎重な工程管理がなされている。

また、地元のコミュニティに対しては、騒音や振動の問題で新たな負荷をかけることは避けねばならなかった。というのは、新線建設、新駅建設であれば工事の結果として地元へのメリットがあるわけだが、今回の工事は地元への直接の恩恵というのはアピールしにくいからである。また、副都心線開通によって「長年の工事から解放された」と安堵した地元に対して、工事の再開に対する理解を求めなくてはならないという問題もあった。

さらに費用の問題もある。この連絡線工事は「必要に迫られた」ものではあるが、工費という投資に見合うリターンはない。もちろん、今回の「Fライナー」の立ち上げで、大幅な乗客増が得られれば、それは収入増になるかもしれないが、仮にそうだとしても、その中でメトロの取り分は限られる。費用面では、仮に工事区域が「ヨコ」に広がって、公道の地下から民有地に食い込むようでは、新たな出費が発生することにもなる。

2つの工夫で難関クリア

こうした厳しい条件に対処するため、2つの大きな工夫がされている。1つは、工事を進めるための資材や機材の置き場を、基本的に地下に設置したということだ。副都心線の開通によって、いったん「工期完了」となって「原状回復」への措置がされた地上に、再び新たな構造物を多く設置することは避けねばならなかったからだ。

もう1つは、とにかく地上から下へ掘るということを避けるために、シールド工法が採用された点だ。それもヨコに広がらないように小型で縦長の「楕円形シールド」を開発、振動や騒音を最小限に抑えるために低速での掘削工法が採用された。この「楕円形シールド」は、地下の他の構造物との干渉を避ける必要のある「既成の都市における地下の再開発」工事では、世界中で応用可能な技術として注目されているという。

2008年6月の副都心線開業時の混乱は、鉄道事業者としての東京メトロにとって悪夢であったに違いない。だが、この問題に関して正攻法で解決に着手し、しかも厳しい条件下での「難工事」をしっかりやり遂げたという点では、評価されていいだろう。

冷泉 彰彦 作家

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れいぜい あきひこ

1959年生まれ。東京大学文学部卒。米国在住。『アメリカは本当に「貧困大国」なのか』など著書多数。近著に『「上から目線」の時代』(講談社現代新書)。

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