発達障害とは「欠如」ではなく「ずれ」である 未完成な状態で誕生するヒトの脳の宿命
本書『発達障害の素顔 脳の発達と視覚形成からのアプローチ』で取り上げられる発達障害は、教育現場でその問題が指摘される自閉症スペクトラム障害やディスレクシアなどから、遺伝子疾患によるウィリアムズ症候群まで幅広い。発達障害そのものではなく、「乳幼児の心と脳の発達」を研究の重心としてきた心理学者である著者は、従来は社会性の障害であるといわれていた発達障害に、視覚情報処理とその発達という科学的知見から新しい光をあて、これらの障害が何に起因するどのようなものであるかを丁寧に教えてくれる。
自閉症のポイントは、欠如ではなく視点のずれにある
この世に生まれ落ちたばかりの赤ちゃんがどのように視覚を獲得し、脳を発達させ、世界を理解していくのかを知ることは、発達障害を抱える人々が見ている、感じている世界がどのようなものなのかを解明する助けとなる。さらに、そのようにして他者の視点を想像することは、わたしたち自身が世界をとらえる方法、社会と対峙する方法をより豊かにする。
自閉症のポイントは、何らかの欠如ではなく視点のずれにある、と著者は説く。例えば、視力がよく生まれた新生児は、顔の細かな部分まで見分けることができるが故に顔の全体を把握することが困難となり、自閉症の特性を示すことになるという。多くの人と異なる個性的な行動を取る人、誰もが理解できる心の機微を理解できない人を見ると、ついそんな人には何かが欠けているのではないかと考えがちだ。しかしながら、それらの人々は単に違う角度から世界を見つめているだけかもしれない。
そもそも発達障害と一口に言っても、その全てに共通する脳の障害があるわけではなく、平均的な軌跡とは異なるプロセスを示すところにその特徴がある。そして、発達障害がその他の障害と最も異なるのは、その障害が刻々と変化していくこと。そのため、自閉症の診断は、2歳半から3歳になるまで確定が困難だという。1歳頃まで発達が平均から遅れているように見えていた子が、2歳を目前に急速な発達を見せるようなこともよくあるためである。
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