「休めない」日本人をこれ以上増やさない発想 もはや企業に「ポーズ」は求められていない

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ちなみに、5 TSUBO CAFEのサイトには「雑談が仕事に効果ありと考える人は83%」と記載されているが、2010年に米国、ミシガン大学とカリフォルニア大学サンディエゴ校のグループは、雑談が仕事にプラスの効果を与えるという研究結果を報告している。

企業が休むことに対して“公認”を与える方法は、オフィス改革など必ずしも物的なモノである必要もない。「面白法人」を標榜し、広告コンテンツ開発やスマホゲーム開発・運営などを手掛けてきたカヤックでは「正しいサボり方研修」を3月2日に実施する。

実はこの研修は、過去2回の記事がきっかけでお声掛けをいただき、恐縮ながら私が講師を務めることになった。当日は、前回までに紹介させていただいたことを含め、休むことが生産性を高める科学的根拠や、休みベタな日本人のためのサボり方、「サボる」ことに対する発想の転換などを話すが、企業が「サボり方」を「公認」で教えることほど、強力な“お墨付き”はないのではないだろうか。

公認を「ポーズ」ではなく「貫き通す」

ここまで休むの「公認方法」について、幾つか事例をご紹介してきたが、何より重要なのが、「ポーズ」としての公認ではなく、公認を「貫き通す」ことだろう。

企業の「休む」がテーマになった際に話題になるのが、「ワークライフバランス重視(≒休みやすい職場)」というトップの指示は、「労働時間を年間○時間削減」という数値目標に置き換わり、一方で売上目標は年々上がっていく(場合によっては、人員も削減されたにも関わらず)現象だ。

多くの企業は会社の姿勢に対して社員が疑問を抱くリスクをとって、両方を追う選択をするが、株主総会で「この会社は売り上げと利益を最優先にはしません」と宣言してまで、貫き通した企業が存在する。グループウェア開発を手掛ける「サイボウズ」だ。サイボウズは、かつて離職率28%を記録していた時代もあったが、株主総会での宣言など、終始一貫した姿勢を貫き通したことで、現在では離職率は3%まで低下したそうだ。

昨年末に企業のストレスチェックが義務化されたことで、「健康経営」に対する機運がにわかに高まっているが、実態が伴わない印象が否めない要因の1つは、“ポーズ”と思われる施策が展開されていることも1つであろう。にぎやかしではなく、実態を伴う健康経営になるか。企業の本気度が試されている。

西多 昌規 早稲田大学教授 精神科医

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にしだ まさき / Masaki Nishida

東京医科歯科大学医学部卒業。ハーバード大学客員研究員、東京医科歯科大学大学院助教、自治医科大学講師、スタンフォード大学客員講師などを経て、現職。日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会専門医、日本老年精神医学会専門医など。専門は睡眠医学、身体運動とメンタルヘルス、アスリートのメンタルケアなど。著書に、『休む技術』『休む技術2』(大和書房)、『悪夢障害』(幻冬舎新書)、『自分の「異常性」に気づかない人たち』(草思社文庫)などがある。

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