選挙の焦点に急浮上した企業・団体献金規制と世襲制限

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選挙の焦点に急浮上した企業・団体献金規制と世襲制限

塩田潮

 5月解散か6月解散か事実上の任期満了か。諸説が飛び交うが、総選挙はもうすぐだ。争点は経済再生、年金、消費税、安全保障や外交、分権改革、「政治とカネ」などだが、今回は政権選択が最大のテーマである。
 加えて、ここにきて、麻生政権の大型ばらまきによる財政規律の封印解除、北方領土問題の新提案、企業・団体献金規制、世襲制限といった問題も浮上している。総選挙をにらんだ集票作戦、人気取りという思惑が透けて見えるが、長年の懸案の重要課題を総選挙で有権者に問おうとするなら、その姿勢は正しい。
 問題は本気度だ。単なる選挙対策ではなく、選挙後も息長く真剣に取り組む覚悟かどうか、有権者はそこを見極め、監視しなければならない。急浮上の争点では、とくに企業・団体献金規制と世襲制限は、日本の政治の質と民主主義の成熟度に大きく関係する。選挙前の人気取りの要素があるにしても、政党が本気で取り組むなら大歓迎である。

 中でも世襲制限は注目すべき課題だ。
 現実に自民党は国会議員の3分の1が世襲政治家で、指導者層に当たる当選5回以上の衆議院議員のうち、世襲政治家は党の全衆議院議員の57%に達する。世襲横行は機会均等、門戸開放、活性化促進、人材結集の大きな阻害要因で、党にとって「死を招く病根」という建前に異論はなくても、事実上、党を握る世襲政治家たちの「本音の壁」にいつもさえぎられ、議論は先に進まない。
 政権選択選挙を前にしたこの時期でなければ自民党では話題にもならないテーマである。世襲制限論で先鞭をつけたのは民主党だが、改革に踏み出すなら、民主党との競争を余儀なくされた今しかチャンスはない。小沢事件発覚後も、世論調査(4月21日発表の朝日新聞)で「民主党中心の政権」を望む率が41%もあり、「自民党中心の政権」は29%にすぎないという数字を、自民党の世襲政治家たちはもっと深刻に受け止めるべきだろう。
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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