FTを買った日経の「目指す方向」が見えてきた 高すぎる買い物と決めつけるのは、まだ早い

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FTの現編集長ライオネル・バーバー氏によると、部数を伸ばすために苦労したのは同じ英語圏の米国だった。米国にはWSJ以外にも、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなど「大物がたくさんいた」(2013年、FTの創刊125周年記念記事より)。

そこで、自分たちを「小さな作戦部隊」と捉え、注意深く選んだトピックについて記事を書き、「国際的マインドを持つ米国人に販売した」という。

地元米国の知識人やメディアを驚かせ、敬意をもたれる報道を行うことによって、「ファン」を増やしていった。

「海外に人や印刷拠点を置くこと」、そして「その国で一目置かれるような報道を行うこと」—こうした努力を何年も続けてきた結果として、FTの現在がある。外的要因として、東西ドイツの統一(1990年)、ソ連の崩壊(91年)、欧州の単一通貨の誕生(98年)など、国際社会に大きな影響を及ぼす欧州の大きな動きも追い風となった。

近年のデジタル化については、現編集長の功績が大きい。2005年から現職のバーバー編集長はテクノロジーへの投資を就任直後から重視してきた。

「良いコンテンツにはお金が払われるべき」という方針のもと、メーター性を2007年に導入。数本までは無料で読めるが、これを過ぎると有料にした。無料登録者から有料購読者への転換には購読者になるまでの過程を出来うる限り簡素化し、「有料でも読みたい」と思わせるようなコンテンツを提供した。こうしたコンテンツは、経済紙ならではであった。

現在は、1カ月間、1ポンド(約180円)で読めるトライアル制を導入している。

バーバー編集長は電子版の制作を主とする「デジタル・ファースト」の提唱者でもある。

1600億円は高すぎるのか

昨年7月24日の記者会見における日経新聞社の首脳(撮影:今井康一)

日経によるFTの買収金額(日本円で約1600億円相当)が日経の年間売上高に近いこともあって、「高すぎる買い物」という評価が日本内外で出た。

また「戦略なき買収だ」、「FTを手中にして、何を達成したいのかわからない」という声を、筆者自身が日本のメディア関係者から何度となく、聞いた。デジタル化、グローバル化を狙うのは理解できるとしても、将来的に日経グループ全体としてどのような目標を描くのかが分からない、と。

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