「タワマン街」武蔵小杉が住みやすい真の理由 新旧住民が交わるプラットフォームがカギ

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同時期にもうひとつ生まれたのが、コワーキングスペースYou+。公共施設では飲食不可などの制約があり、もう少しリラックスした雰囲気で集まれるコミュニティカフェのような空間が欲しい。と長らく話はあった。それを末永さんが「発展」させたわけだ。

ここ3~4年、増えているコワーキングスペース。都内には100カ所以上あるものの、当時、そして今も川崎にはコワーキングスペースがなかった。とはいえ、武蔵小杉は住むための場所であり、ビジネスの場ではない。そこでどのようにコワーキングスペースを成立させるか。末永氏が選んだのは地元のコミュニティ活動をバックアップする場としての在り方だ。末永氏いわく「私設公民館」。飲食の持ち込みやおしゃべりができる緩い空間では、こすぎ朝学も開催。街に関心がある、何か活動を始めたい人、地域に友だちを作りたい人などが集まるランチ会、飲み会なども行われている。

「街は面白いか、儲かるかでないと人は集まらない」

エリマネ、情報、場所がそろったことで、武蔵小杉では人がつながりやすくなると同時に、いろいろなコミュニティが立ち上がるようになってきた。「この街をもっと楽しく、面白く、住みやすい街にしていこうという雰囲気が醸成されているんじゃないか」と岡本氏。メンバーそれぞれも地元の知り合いが増え、この街に帰ってきたら仲間がいる、身を置く場所があると感じられるようにもなっているそうで、「この街に住んで良かったと思うようになりました」。

従来の再開発では新旧の住民がほとんど交わらない地域があることを考えると、武蔵小杉の新旧の融合ぶり、地域の活動の活発さは希少だ。外からはタワーが並ぶ、無味乾燥な街にしか見えないものの、その内部では人がつながり、街をよく、面白くしようという活動が増えている。開発で生まれたハード面の住みやすさに人のつながりが生むソフト面の住みやすさ、その2つがあることが武蔵小杉の強さというわけだ。

とはいえ現状、街の活動に熱心なのは働き盛りの世代が多く、総じてITリテラシーが高い層という偏りもある。今後は各種告知に紙媒体を利用するなど、もっと広範に呼びかけられるようにしたいとはつしも氏。今後も武蔵小杉は面白くなりそうである。

取材の最後に末永氏がぽつりと「面白いか、儲かるかでないと人は集まって来ない。そして行政にはどちらもできない」と言った。エリマネを立ち上げたのは川崎市だったが、その後は地元の人たちが中心となって、現在までの道筋を作ってきた。これからの街づくりでの公と民のバランスはかくあるべきなのかもしれない。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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