豪腕・奥田会長 日本の賃金を下げる

給料はなぜ上がらない

豪腕・奥田会長 日本の賃金を下げる

歴史に「イフ」は禁物だが、”もし”あれがなかったら、今回の「賃金上昇なき景気拡大」はまた違った局面を見せたのではないかと思われる出来事がある。

2002年の「トヨタショック」である。

02年3月期決算で、トヨタ自動車は日本の企業史上初めて、連結決算での経常利益が1兆円を超す。日本全体ではITバブル崩壊で景気は大底状態。そんな中、トヨタは海外販売が好調で、勝ち組企業の座を不動のものとしていた。

ところがこの年の春闘で、トヨタは「ベースアップ(ベア)ゼロ」に踏み切る。業績絶好調のトヨタのこの決断により、日本企業全体で賃金抑制の流れが一気に広がった。

 図は、四半期ベースでの、労働生産性の上昇(青の棒グラフ)と、実質賃金上昇率(赤の折れ線)、過去の労働分配率を維持すれば実現できたはずの実質賃金上昇率(青折れ線)を示したものだ(みずほ総合研究所が作成した図を東洋経済が一部加筆修正)。赤の折れ線より青の折れ線が上にある期間は、本来労働者が受け取れるべき賃金を受け取っていなかったことを示している。

この起点となったのが、トヨタのベアゼロだった。史上最高益のトヨタがベアゼロに踏み切ったことで、他の企業も追随。05年まで賃金抑制期が続くことになる。

賃金が上昇していたなら、理在の景気の牽引役は輸出産業ではなく、個人消費になった可能性が高い。これが冒頭のイフである。そして、賃金抑制で最も影響を受けたのは、大企業の正社員ではなく、急増した非正規社員たちだった。
 
ベア見送りと非正規化賃金抑制の仕組みが整う

イフを振り返るために、時間を02年に戻してみよう。 この年、トヨタ労組は春闘で、前年の妥結額600円を上回る1000円のべースアップを要求した。これに対して、トヨタ経営陣の出した回答はベアゼロ。完全失業率が5%を超え雇用環境が戦後最悪となる中、日経連(02年に経済団体運合会と統合)の会長でもあった奥田碩トヨタ会長(当時)は、雇用維持のため「ベア見送り、定期昇給の凍結にも踏み込む」姿勢を打ち出していた。奥田氏はことあるごとに「賃上げは論外」と労働側を牽制していた。
 
 ちょうどこの頃、日本の産業界では中国脅威論が強まる。圧倒的に安い中国の人件費を前に、日本企業の高コスト体質をどうするのか。いかに人件費を固定費から変動費に切り替えるかが、大きな経営課題になっていた。
 
 奥田氏は産業界を代表して、賃上げ論を牽制し続けた。トヨタの労務担当役員に労使交渉を委ねていた奥田氏は、春闘のさなかに「トヨタがベアで有額回答へ」とのニュースが流れるや、「まだ従来型の1OO円玉を積み上げる交渉をしているのか」と、社長以下の経営陣を一喝したともいわれる。

グローバル競争に勝つために、人件費はできるだけ抑える。利益1兆円が確実なトヨタを率いる奥田氏の強い姿勢は、ほかの企業にも伝播する。それは一つはベアゼロであり、労働の非正規化=非正社員を増やすことであった。

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