日本初の“軽空母”が誕生、増強される海上兵力

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日本初の“軽空母”が誕生、増強される海上兵力

「君が代」の演奏とともに、国内最大となる「軍艦」の船尾に旭日旗が翻った。

新型護衛艦の名は「ひゅうが」。全長198メートル、最大幅33メートルで、基準排水量は1万3500トン。就役中の「こんごう」の7250トンと比べて排水量は一挙に2倍となり、大型ヘリコプター4機が同時に着艦できる。3月18日、IHI子会社のアイ・エイチ・アイマリンユナイテッド横浜工場で正式に海上自衛隊に引き渡された。

ひゅうが=日向は、神武天皇の東征がここから始まったことにちなみ、日本海軍の発祥の地とされる。命名に防衛省の思い入れの深さが見て取れるが、特筆すべきは大きさだけではない。これまでのDDH(ヘリコプター搭載の対潜水艦作戦用の駆逐艦)と違い、甲板の端から端まで離着陸の障害物がない。形状としては空母と同じ、初の「全通甲板型」となる。

排水量1万3500トンはイタリアやスペインの軽空母に匹敵し、駆逐艦の範疇を越えている。甲板にはジャンプ台がないため、STOL(短距離離着陸機)のような固定翼機は搭載できないが、軽空母に一歩も二歩も近づいた、と言っていい。

中国も空母建造か

「この船への期待は大きい。多目的艦として大災害時には救援本部にもなる。一生懸命訓練し、早く期待に応えられるようにしたい」。記者団のインタビューに応じた山田勝規艦長は、あえて安全保障上の任務には触れなかった。

近年、陸上兵力と航空兵力が横ばいないし下降ぎみなのに対し、海上兵力は着実に拡大している。2007年度の海上兵力43・7万トンは、英国の89・7万トンに次いで世界5位だ。

米国のアフガニスタン作戦の援護射撃として、護衛艦と給油艦がインド洋に派遣されたのは7年前。3月14日には、海賊退治に護衛艦がソマリア沖へ遠征した。ひゅうがは、急拡大する海上自衛隊の能力と任務の象徴でもある。

ひゅうがの建造費は装備品を含め約1000億円。第2隻目もアイ・エイチ・アイマリンユナイテッドで近く着工となる。民主党の小沢一郎代表が「米国の極東のプレゼンスは第7艦隊で十分」と発言して波紋を呼んだが、日本の海上兵力については正面から国会で議論されることはない。折しも海賊退治で先行した中国が4月中にも、空母建造を発表すると伝えられる。「ならば日本も軽空母くらい」という世論が盛り上がることになるのか。それとも、あらためて平和憲法の“一線”が意識されることになるのか。

限りなく軽空母に近い「軍艦」は、揺れる時代の風を受けながら船出する。

(出典:海上自衛隊)

(撮影:鈴木紳平)

梅沢 正邦 経済ジャーナリスト

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うめざわ まさくに / Masakuni Umezawa

1949年生まれ。1971年東京大学経済学部卒業。東洋経済新報社に入社し、編集局記者として流通業、プラント・造船・航空機、通信・エレクトロニクス、商社などを担当。『金融ビジネス』編集長、『週刊東洋経済』副編集長を経て、2001年論説委員長。2009年退社し現在に至る。著書に『カリスマたちは上機嫌――日本を変える13人の起業家』(東洋経済新報社、2001年)、『失敗するから人生だ。』(東洋経済新報社、2013年)。

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