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2018/6/8

良品計画元会長が語る
生産性向上の秘訣とは何か Vol.2
生産性向上には
成功や失敗の歴史を
「見える化」すること

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無印良品の経営改革を担うことになった松井氏。しかし、当時の流通・サービス業は経験主義が採られ、何事もスタッフの能力次第。会社には何も「勝つための仕組み」がなかった。良品計画が初期に取り組んだ大きな課題は商品開発力の向上だった。販売量を増やすことで解決しようとし、そのために直営店だけでなく、FC出店にも手を広げていく。

販売量に追いつかない
商品開発力

販売量を増やす一方で、FC店は直営店と異なり、運営が難しいのではないですか。

松井いえ、むしろFCのほうが、オペレーション力がありました。当時のFCは地域の有力者、特にアパレルの代理店が担っていました。地方の有力なFCには力があり、教育もしっかりしている。百貨店やスーパーのスタッフよりも、はるかに魅力的な売り場をつくることができたのです。結果として、坪効率も高くなりました。

しかし、商品開発が追いついてきません。それに気づいたときには、お客様が欲しい商品を無印良品としてつくれなくなっていました。クオリティも低いし、それまで急いでつくってきましたから、本来の哲学に基づくものではなく、あるものを仕入れてきて売ることしかやっていない。つまり、自分で仕入れをして、それをプライベートブランドと言っているにすぎない。そんなレベルだったのです。それでは当然、お客様を満足させることはできません。

販売を伸ばした結果、今度は商品開発力の弱さを実感したということですか。

松井2000年前後に業績が低迷していた理由はいくつかあるのですが、いちばんの問題は商品開発力の低下が足を引っ張っていたことでした。SPA(製造小売業)を目指しているのに、商品開発力がないのは致命的なことです。今度は「販売なくしてビジネスなし」という考えを改めなければならないことに気づくのです。

たとえば、婦人服のスタッフは、いつどれくらいの商品が入って、どんなものが来るのか。ある程度は把握できるのですが、はっきりとはわからない。しかも取引先が無印良品向けの在庫をどれだけ持っているのかもリアルにはわからないのです。

そこで、取引先に毎月アンケートを出して、今在庫がどれくらいあるのかを報告してもらうようにしました。それをスタッフが表計算シートで集計していく。そして、1カ月くらい経って、ようやく取引先の在庫が見えてくる。それまでは在庫もわからなければ、どんな商品をつくっているのかもわからない。いつ入ってくるかもわからない。クオリティもわからない。そんなレベルだったのです。

日本のメーカーの強さは
どこにあるのか?

すべてはスタッフの経験と力量に頼っていたということですか。

松井衣料品というものは、春夏と秋冬という二つの大きなサイクルで回っており、もし2000年の秋冬で失敗したら、01年の春夏で挽回しようと考えます。でも、無印良品では、挽回できないのです。それはつくり方が見えないからです。結果も出てくるまでわからない。出てくるとやっぱりダメだとわかる。そんな状況でした。

商品開発は過程が見えないとうまくいきません。それまでは、つくり方も婦人服、紳士服、子ども服、いずれもスタッフの能力で決まっていました。これが経験主義の弊害です。日本の大半の企業は今も経験主義で商品をつくっていると思います。

どうすれば、良い商品をつくることができるのでしょうか。

松井商品はお客様に満足していただけるものをつくらなければなりません。そのためには、世界の才能と一緒につくる。そして、商社のレベルを超えるような商品を探して集めてものにする着想を新たに考え出しました。

たとえば、海外に世界最高峰といわれるシャープペンシルがある。それは、いくつかの特許で守られており、価格も1万円以上します。そんなスーパーブランドの品質を目指して、改良し続けていれば、これがいいというレベルにまで引き上げることはできるのです。そこで、われわれは2001年ごろから商品のつくり方を一変させることにしました。

現在の無印良品では、世界の代表的なデザイナーが商品開発に参加しています。無印良品ではシンプルな商品であるがゆえに、すぐまねできるように見えるのですが、実際にまねはできない。それが無印良品の商品の特長であり、強さなのです。

商品開発を一変させたことが、無印良品の転機だと言っていいのでしょうか。

松井そうです。良い商品にするために、つねに改善していく。しかも良い商品にする過程も見えるようにした。実際、商品開発ではイタリアやオーストリアの一流デザイナーとワークショップを組み、その議論の過程を記録として残していきました。

新しく担当するスタッフは、大学の先生が研究に際し、過去の先行研究にあたるように、その記録をベースとして、スタートできるようにしたのです。そこからスタートできれば、膨大な無駄が発生することもありません。

ところが、流通業界には今も、それがないのです。メーカーには成功や失敗の歴史はあるにはあるのですが、それは企業秘密として公表していないのです。ご存じのようにメーカーは工場見学でも、本当のノウハウがあるところは公開していません。逆に言えば、そこに日本のメーカーの強さの秘密があると言えるでしょう。

失敗をデータベース化する

無印良品は商品開発を、いわゆる「見える化」することで、スタッフがスムーズに仕事を引き継げるようになったのですね。

松井商品開発の成功や失敗の歴史を「見える化」すれば、問題の8割は解決できるようになります。それは当然です。問題点が見えるわけですから。あとはやり方です。

どのようにつくるのか、どの工場、どのデザイナーに頼むか。そこにも多くの失敗がありました。シャープペンシル一つとっても、問題が発生するたびに改善しなければなりません。そこでメーカーと一緒になって商品のレベルを上げていったのです。

そのときに失敗の記録を残して、「見える化」していく。その過程を積み重ねることで、ようやく誰がやっても、きちんとした商品がつくれるようになるのです。

しかも、まねできるようで、できない商品が生まれる。

松井それがデザインの力です。しかも、その力はお客様の要望やクレームを取り入れたからこそ、実現したものなのです。事実、無印良品には改善提案制度があり、店舗スタッフからの提案ほか、お客様のクレームや要望をデータベースにして残しています。

お客様の声は、電話やメールなどで年間17万件ほど上がってきます。そうした要望をそれぞれナンバリングし、週ごとに集計して、実際の商品開発に生かしていくのです。クレームがあれば、どう直すか。要望があれば応えるかどうか。そうした作業をずっと続ける。そうやって商品開発のノウハウを蓄積していったのです。

そのノウハウの一つをご紹介しましょう。商品開発では、専業メーカーと組むと大きな間違いは起こりません。新規参入のメーカーとは組まないほうがいいのです。たとえば、ボールペンにはインクを調整するために、ペン先に空気を通す非常に微細な穴があいています。その位置、大きさこそが重要なノウハウなのです。専業メーカーにはそのノウハウがある。専業メーカーと組まなければ商品の品質を担保できないのです。

どんな商品も簡単なように見えて、その裏に深遠なノウハウの追求があるのですね。

松井無印良品でも家電をつくったことがあります。当時、ある大手メーカーに炊飯器をつくってもらったのですが、無印良品ですからデザインもシンプルにして、機能もオリジナル化しました。ところが、ご飯を炊いたときに、パサパサになるものとベチャベチャになるもの、両方のクレームが来ました。早速、メーカーと一緒に再現実験を何度も繰り返しました。

結局、問題はご飯釜のふたの角度にあることがわかったのですが、そうしたトライ&エラーで家電の細かい調整部分がだんだんとわかってきたのです。それほど家電は微妙なものなのです。ですから、山のように失敗しました。そうした過程が良い商品をつくっていくためには必要なのです。モノづくりは失敗の歴史の中で、つくられていくものなのです。

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