―― 日本そして日本企業の競争力向上にロボットは貢献できるでしょうか。
高橋
ITの次はロボット、すなわち日本の時代が来ると考えています。日本のロボットって、程よく機械っぽくて、程よく人間っぽい。しかもデザインとか、動きとか、どうすればかわいくなるのかという数値化できない感覚的な要素がロボットは複雑に絡みあっているから簡単にまねができません。
それは鉄腕アトムやドラえもんのように漫画の中で試行錯誤されて培われてきたもので、日本の文化と強く結びついています。ロボットが友達になると本気で思えるのも日本人でしょうし、ワインはフランス、スーパーカーはイタリアのように、ロボットと言えば日本という方程式が出来上がっています。そうなれば人も、資金も集まりますから、技術的な優位性が保たれるというわけです。
しかし、すべてのロボット分野において「一番」であり続けることは不可能です。作業ロボットなど目的が明確なものは、国際的な単純競争になってしまいかねない。計算の速さを競うスパコンなどを見ればわかるでしょう。ここにイノベーションを起こすヒントもあると考えています。100m走で1位になろうとすると本当に世界一にならなければいけないけど、陸上の10種競技やスキーの複合などのように組み合わせてオンリーワンを目指せばイノベーションも起こしやすい。
―― ヒューマノイドロボットは、最たる例ですね。高橋さんは、よく「発明は必要の母」つまりニーズを先に見るなと話されていますが、イノベーションを生み出すコツもそこにあるのでしょうか。
高橋
お母ちゃんがあかぎれの手で冷たい水で洗濯しているのを見て、全自動洗濯機を発明する。そういう問題解決や、あるいは既存のサービスの代替のようなビジネスはもう古い。「You Tube」や「Twitter」、「Facebook」、「世界カメラ」などの新しいツールは、問題解決のためでも、誰かが欲しくてつくったのでもない。
学生の遊びみたいなものをネットで見せびらかしていたら、みんなが面白いと寄って来て、投資家が出資してくれるというので会社をつくってみた。すると「『Facebook』って就活に便利だよね」というように用途が後から生まれてきて、「広告を載せて儲けよう」と後からビジネスモデルが組み立てられました。
こうした"遊び"には経済的なゆとりや文化的な豊かさが必要で、そういう意味では先進国にしかできない手法と言っていいと思います。もはやニーズに応えるビジネスは途上国型であり、日本はそこにしがみついているべきではないと考えています。
―― そうした分野では、日本は欧米に先行されている感があります。
高橋
少なくとも欧米は、日本より先に先進国になっているし、最近は日本も遊び心が出てきた。しかも"遊び"が、リアルの世界のものづくりになった時、いままで日本が得意にしてきたものが役に立つのではないではないかと考えています。
そのためには面倒くさがらずに手を動かして、コツコツと自分の手でものをつくっていかなければなりません。手を動かしてみると思いどおりにいかないこともあるし、途中でさらにいいアイデアが浮かんで練られていいものができることもある。これが知的なクリエーティブにつながっていくのであり、そこを勘違いしているとイノベーションの可能性を摘んでしまいます。
―― ロボットを制作する際、高橋さんは設計図を描かないそうですね。
高橋
頭の中にはありますよ(笑)。でも細かくはない。一人で設計から制作まで手がけているということもあり必要ないという事情もありますし、イメージスケッチ程度のもので最適なものを追求していったほうが結果としていいものができると考えています。
手を動かして、ガリガリと素材を削って、くっつけて、部品をいじりながらつくっていくことが創造していくうえで欠かせないのです。ものづくりの本当の価値はイノベーションにありますから。ある有名なデザイナーの方が言っていました。「コンピュータにできることは誰でもできる、だから自分は手を動かそう」と。人間はリアルなものを手で触って、なでて、つくっていくことを省くことはできないのです。
私は、自身について何かの判断をする時、他人事として見るようにしています。たとえば、同じ値段の堅実な新車と変な輸入中古車どちらを買おうか悪友に相談したら、絶対後者を勧めてくるはず。他人目線で選択をしていくと、もちろん苦労もあるけど、やっぱり面白いことが起きる。企業経営においても各人がそれぞれの立場で保守的になりすぎていないでしょうか。適度な確かさ、怪しさのバランスを見極めて、イノベーションを探求し続けてほしいと願っています。
高橋智隆 ロボットクリエーター
2003年京都大学工学部卒業と同時に京都大学内入居ベンチャー第1号となる「ロボ・ガレージ」を創業。ロボットクリエイターとしてロボットの研究、設計、デザイン、製作を手掛ける。今夏、「キロボ」をコミュニケーションロボットとして世界で初めて宇宙へと打ち上げる。ロボカップ世界大会5年連続優勝。米タイム誌で「最もクールな発明」に選ばれ、ポピュラーサイエンス誌では「未来を変える33人」の1人に選ばれる。東京大学先端研特任准教授、福山大学客員教授、大阪電気通信大学客員教授などを兼任