だが、看護婦への揺るぎない意志をさらに試すかのような出来事が、ナイチンゲールに降りかかる。30歳を前にして、政治家で詩人でもあったリチャード・モンクトン・ミルンズからプロポーズされたのだ。
ミルンズとは晩餐会で出会ってから、これまでもアプローチされてきた。当初は彼に関心を持たなかったナイチンゲールだが、何度か会う中でミルンズが慈善事業に関心が高いこともわかり、いつしか心惹かれていったようだ。
ついに求婚された今、ナイチンゲールは自分の気持ちを整理しようと考えたのだろう。独特な表現で心情を記している。
「私には知性の満足を求めるところがあるが、彼ならそれを充たしてくれるであろう。また情熱の満足を求める性質もあるが、それも彼は充たしてくれるであろう」
使命を選ぶか、恋に生きるか
知的な好奇心も、情熱を求める心も満たしてくれるならば、人生のパートナーとしては申し分ないだろう。しかしながら、彼をもってしても満たせないものもあった。
「私には満足を要求する道徳的、行動的な性質がある。その満足はあの人の生活中には得られない。時には私もともかく情熱的な性質を満足させようと考えないでもないが……」
道徳的に正しいと思う行動をとりたい。それこそが、ナイチンゲールの思いであり、だからこそ、両親の猛反対を押し切ってまで、看護婦になろうとしている。
今、結婚してしまえば、その使命をまっとうすることは難しい。いや、情熱を最優先して恋に生きる道もあるが……とナイチンゲールは葛藤する。
どうしても避けたいことがあった。それは「ほんとうの意味で豊かな生活を自分のためにつくる機会を永遠につかめなくすること」。
悩み抜いた末にナイチンゲールは自分の夢を追うことを改めて決意。このプロポーズを断っている。


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