準備を整えても、抽選そのものが行われない年もあるため、事業としてはかなり不確実性が高い。実際、伊藤社長も抽選に外れて、計画の見直しを余儀なくされた経験を持つ。
「参入障壁は設備や技術だと思っていたら、実際には制度が最大の壁でした。でも逆に言えば、それを乗り越えれば競争は激しくないとポジティブに受け止めました」(伊藤社長)
既存の養殖事業者との協業などで参入の糸口を見つけ、現在は小規模ながらも年間約8000尾の養殖枠を確保している。
もっとも、うなぎの温泉養殖には稚魚の調達やえさの供給、過密飼育に伴うリスク管理、養殖枠の配分制度など課題も多いのは間違いない。とくに養殖枠については、実際には使われていない枠や低稼働の枠があるはずだが、制度の硬直性が新しい挑戦のスピードを抑えているのが現状だ。
全国にある「温泉」という資源を生かさないのはもったいない
それでも、この温泉養殖の取り組みは地方に残された可能性をはっきりと示している。
「温泉の成分や水質によっては魚に影響を及ぼす可能性もあるので、適性の見極めが前提となりますが、温泉は全国にある資源です。それを生かさないのはもったいない」と伊藤社長は話す。
観光資源として使われてきた温泉施設が、うなぎを育てる場へと変貌した。人口減少が進む中で、地域の資源を生かして産業の拠点をつくる方法の一つが、ここに示されている。

